ひとくち数学「等周不等式とFourier級数」
Fourier級数の数学的な応用例をひとつ.
これは等周不等式といって,元々の発端は大昔に,決まった長さの紐で図形を作るとき,面積が一番大きくなる図形はなにか?という問題からです.まぁ答えは円ということですね.
なにやら幾何的な証明もあるようですが,ここではFourier級数という暴力を振るうことで解いてしまおうという話です.
で問題では面倒なので面積を初めから上のように置きましたが,要はグリーンの定理で重積分を線積分に変換してるのでそうなってるということで特に深い意味はありません.
証明の前に曲線\(C\)のパラメータは弧長パラメータ,つまり,\(s\in [0,\ L]\)で\(((x'(s))^2+(y'(s))^2=1\)としてよいことは注意しておきましょう.
またFourier級数にも多少定義にゆれがあるので,ここでは周期\(2\pi\)な関数\(f\)に対して,\[a_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos nx\ dx,b_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin nx\ dx\]
としておきます.(一般に周期が\(2\pi\)でなくとも適当な変数変換により周期関数のFourier係数を求めることはできます).これにより,\(f\)のFourier級数は\[f(x)\sim \frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}(a_n\cos n\pi x+b_n\sin n\pi x)\]となります.
また周期\(2\pi\)の関数\(f\)が二乗可積分ならばparsevalの等式\[\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\mid f(x)\mid\ dx=\frac{\mid a_0\mid ^2}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}(\mid a_n\mid ^2+\mid b_n\mid ^2)\]が成り立ちます.
これらに注意して等周不等式を示します.
さて,まず単純閉曲線なので,各\(x(s),y(s)\)は\[x(0)=x(L),\ y(0)=y(L)\]を満たします.これは周期\(L\)の周期関数なのでFourier級数展開が可能です.
よって\[x(s)=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\left(a_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)+b_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]
と
\[y(s)=\frac{c_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\left(c_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)+d_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]
のように展開されます.ここで\(a_n,c_n\)はそれぞれFourier余弦係数で\(b_n,\ d_n\)はFourier正弦係数です.
Fourier級数の一般論から\(C^1\)級ならば真の意味で等号が成り立つことに注意しましょう.
さて,パラメータの関数\(x(s),\ y(s)\)の微分のFourier級数は等号かどうかわかりませんが
\[x'(s)\sim\frac{2\pi}{L}\sum_{n=1}^{\infty}n\left(b_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)-a_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]
と\[y'(s)\sim\frac{2\pi}{L}\sum_{n=1}^{\infty}n\left(d_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)-c_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]
と項別微分をしたようになります.これとParsevalの等式により,
\[L=\int_0^L\ ds=\int_{0}^L(x'(s))^2+(y'(s))^2\ ds\ \ \ \underset{=}{\small parseval}\ \ \frac{L}{2}\left(\frac{2\pi}{L}\right)^2\sum_{n=1}^{\infty}n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)\]
より,\[L^2=2\pi^2\sum_{n=1}^{\infty}n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)\]となります.
一方で\(A\)の方を計算すると\[A=\frac{1}{2}\int_0^L-y(s)x'(s)+x(s)y'(s)\ ds=\pi\sum_{n=1}^{\infty}n(a_nd_n-b_nc_n)\]となることがわかります.
あとは簡単で実際に\(L^2-4\pi A\)を計算します.
\[L^2-4\pi A=2\pi^2\sum_{n=1}^{\infty}(n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)-2n(a_nd_n-b_nc_n))\]
ここで中身に注目すると中身は\[n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)-n(a_nd_n-b_nc_n)=(n^2-n)(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)+n((a_n-d_n)^2+(b_n+c_n)^2)\]
となるので,中身が\(0\)以上となり,等周不等式\(L^2\geq 4\pi A\)の成立がわかります.またこれが等号であるとき上の式から
\[a_1=d_1,\ b_1=c_1,\ a_n=b_n=c_n=d_n=0\ (n\geq 2)\]
となるので,\[\left(x(s)-\frac{a_0}{2}\right)^2+\left(y(s)-\frac{c_0}{2}\right)^2=a_1^2+c_1^2\]となって円であることがわかります.
以上がFourier級数を使った証明となりますが,fourier級数は他にも色んな応用があるので調べてみると面白いと思います.
数学以外でも活躍の多いFourier級数・Fourier変換ですが,単純に数学でも応用がたくさんあるのでFourier解析もやってみると面白いかもしれません.
複素解析覚書き5-正則関数の性質その2~強い定理たち
前回は正則関数の基本的な定理を示しましたので、今回は複素解析における強い定理をやっていきましょう.まぁCauchyの積分定理が一番強いんですけどね.
まず,簡単なこととして次を示します.
proof
前半は対偶により示します.すなわち,任意の自然数\(n\)に対して,\(a\)における\(n\)次導関数の値が0ならば定関数であることを示します.
さて,解析では(?)よく使うテクニックとして連結性を使った証明をします.
どのようにするかというと,\[O_1=\{a\in D;\ f^{(n)}(a)=0\ n\in\mathbb{N}\},\ O_2=D\setminus O_1\]と定義します.
当然目標は\(O_1=D\)なのですが,直接示すのは難しいので,\(O_1,\ O_2\)が共に開集合となることを示すことでその代わりとします.
連結性とは,定義にもよりますが,開かつ閉となる集合は全体か空集合のみとなることだからです.今\(D\)は領域だから連結開集合なのでこれが使えるわけです.
まず,\(O_2\)が開集合であることを示します.\(c\in O_2\)とすれば,当然ある自然数\(n_0\)が存在して,\(f^{(n_0)}(c)\neq 0\)となります.
今,\(f^{(n_0)}\)は正則,特に連続なので,ある\(c\)の近傍\(U\)が取れて,\(U\)上\(f^{(n_0)}(z)\neq 0\)なので\(O_2\)は開集合となります.
一方,\(c'\in O_1\)とすると,\(R>0\)を十分小にとって,\[f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}c_n(z-c')^n\ \ (\mid z-c'\mid<R)\]となりますが,こないだの話から \[c_n=\frac{f^{(n)}(c')}{n!}\]なので,\(B_R(c')\)上\(c_0\)を除いてすべて0です.
よって\(B_R(c')\)は\(O_1\)に含まれるので,\(O_1\)も開集合となり命題の対偶が示されました.より正確にはこれにより命題を満たす自然数が空でないことがわかったので,それの最小値\(k\)を整列性から取れば良いです.
後半の証明は簡単で,\(r>\)を十分小にとって,\(a\)の\(r\)上の\(f\)べき級数展開を考えると,
\[f(z)=\sum_{n=k}^{^\infty}c_n\ \ (z-a)^n\ (\mid z-a\mid<r,\ c_k\neq 0)\]が成り立ちます.
従って,\(g(z)=\sum_{n=k}^{\infty}c_n(z-a)^{n-k}\)とすれば証明が終わります.\(\Box\)
これを使って次を示します.
proof
証明はそれほど難しくありませんがこの定理は後々驚く程の恩恵を私達にもたらしてくれるので示しましょう.
\(a\in D_0\)を集積点としましょう.すなわち,ある\(a\)に一致しない数列\(\{a_k\}\subset D_0\)が存在して,\[\lim_{k\to\infty}a_k=a\]となります.
今\(f\)は特に連続なので,\(f(a)=f(\lim_{k\to\infty}a_k)=\lim_{k\to\infty}f(a_k)=0\)となります.ここからは背理法を用います.すなわち\(f\)が定関数でないと仮定しましょう.
背理法の仮定から上のLemmaを適用できて,ある自然数\(l\)と\(a\)のある近傍上正則な\(g\)が存在して
\[f(z)=(z-a)^lg(z)\]で,\(g(a)\neq 0\)です.ところが,\[f(a_k)=(a_k-a)^lg(a_k)=0\]なので,\(g(a_k)=0\)となり,これは\(g(a)=0\)となってしまいますので矛盾です.
従って,\(f\)は定関数であり,その値は仮定より\(0\)となります.\(\Box\)
でこれがなぜ一致の定理かというと,\(f\)をなんか適当な二つの正則関数の差だと思えば二つの正則関数が\(D\)上で一致していることを主張しているからです.
すなわち正則関数は局所的な部分が決まってしまうとそのまわりがすべて決まってしまうということでもあります.この性質があるため複素幾何なんかは硬い幾何なんだよと幾何の專門の方に教えてもらったことがあります.
まぁ私は幾何の専門ではないのでなるほどーぐらいに聞いていましたが.
さて,これを示したところで次はLioubilleの定理についてです.
proof
証明は\(f\)を仮定のような関数としましょう.このとき,原点の近傍において,\(f\)はべき級数展開が可能であり,その係数\(c_n\)は任意の\(R>0\)に対して,\[c_n=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_R(0)}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{n+1}}\ d\zeta\]と表せるのでした.
従って積分の三角不等式を用いれば,\[\mid c_n\mid \leq \frac{M}{R^n}\]の成立がわかります.
故に,\(R\to\infty\)とすれば,\(c_n=0\)の成立がわかり,\(f\)は恒等的に\(c_0\)であることがわかります.\(\Box\)
これの系として代数学の基本定理が示せます.
proof
背理法により示します.すなわち,\(p(z)=0\)なる\(z\in\mathbb{C}\)は存在しないと仮定します.このとき,\[g(z)=\frac{1}{f(z)}\]とすると正則関数です. このとき,\(z\to\infty\)ならば,\(g(z)\to 0\)より,ある\(R>0\)が存在して,\[\mid g(z)\mid < 334\ \ (\mid z\mid\leq R)\]となるようにできます.そして,\(\{z;\ \mid z\mid \leq R\}\)はコンパクト集合なので,\(\mid g(z)\mid \)は最大値\(M\)をもち,\[\mid g(z)\mid \leq \max\{334,\ M\}\]となります.
故にLioubilleの定理から\(g\)は定関数,すなわち\(f\)は定関数となり矛盾.故に解を持つことになります.\(\Box\)
今回は複素解析の代表的な定理についてやってみました.ありがとうございました.余談ですが,別に\(334\)でなくても\(5000\)兆でもなんでもいいです.
複素解析覚書き4-正則関数を調べるその1
前回は円型のCauchyの積分公式を証明して終わりました.
今回はこのCauchyの積分公式から導かれる正則関数の強力な性質についてやっていきましょう.
正則関数の定義において,\(C^1\)級を仮定していませんでしたが,次の定理により\(C^1\)級どころか何回でも微分可能であることがわかります.
proof
\(a\in D\)と,\(a+h\in D\)となるように\(h\neq 0\)をとると,\[f(a+h,\zeta)-f(a,\zeta)=h\int_0^1\frac{df}{dz}(a+th,\zeta)dt\]が成り立ちます.
今,\[\left|\frac{F(a+h)-F(a)}{h}-\int_C\frac{df}{dz}(a,\zeta)\ d\zeta\right|\leq\int_C\int_0^1\left|\frac{df}{dz}(a+th,\zeta)-\frac{df}{dz}(a,\zeta)\right|dt\mid d\zeta\mid\]
ここで,\(\frac{df}{dz}(z,\zeta)\)は\([0,1]\)で一様連続ですから,任意の\(\varepsilon>0\)に対して,ある\(r>0\)が存在して,任意の\(t,t'\in[0,1]\)に対して,\(\mid t-t'\mid <r\)ならば,\[\left|\frac{df}{dz}(a+th,\zeta)-\frac{df}{dz}(a+t'h,\zeta)\right|<\varepsilon\]が成り立ちます.
従って,上の式は,定数倍の\(\varepsilon\)で抑えることができるので,これで証明が終わります.\(\Box\)
これの系として正則関数がいくらでも微分可能であることがわかります.
proof
任意の\(a\in D\)に対して,\(D\)は領域,特に開集合ですので\(\overline{B_R(a)}\subset D\)なる\(R>0\)が存在します.よって,cauchyの積分公式により,\[f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_R(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta\ \ (z\in B_R(a))\]
が成り立ちます.ここで,被積分関数\(\displaystyle\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\)のzに関する偏導関数は\(\displaystyle\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^2}\)であるので連続です.
よって,\[f'(z)=\int_{\partial B_R(a)}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^2}\ d\zeta\]となり,上の式の右辺の非積分関数の偏導関数は再び連続となるので,\(f'\)も正則となります.\(\Box\)
上の系より,\(f'\)を再び適用することにより結局正則関数は何回でも微分可能であることがわかります.
また一般に,cauchyの積分公式と先ほどの結果から,\[f^{(n)}=\frac{n!}{2\pi i}\int_{\partial B_R(a)}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{n+1}}\ d\zeta\ \ (z\in B_R(a))\]が成り立ちます.
これよりさらに次のことが成り立ちます.
proof
今,\(\mid z-a\mid <r<R\)なる\(r>0\)を任意に取ります.このとき,\(\displaystyle\left|\frac{z-a}{\zeta-a}\right|<1\)より,左辺の被積分関数は\[\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}=\frac{f(\zeta)}{(\zeta-a)\Bigl(1-\frac{z-a}{\zeta-a}\Bigr)}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-a)^{n+1}}(z-a)^n\]
となるので,最右辺の級数は\(\partial B_R(a)\)上一様収束するので,積分と級数の順序交換をして,\(z\in B_r(a)\)上\[\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}=\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_r(a)}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{n+1}}\ d\zeta\right)(z-a)^n\]
となって結論の前半がわかり,\(c_n\)は先ほどの注意から\(f\)が正則ならば\(c_n=\frac{1}{n!}f^{(n)}(a)\)となります.\(\Box\)
また,今はべき級数展開でしたが,\(\mid z-a\mid>R\)のときは,\(\mid z-a\mid>r>R\)なるものをとり,ほぼ同様にすることによって\[\int_{B_R(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta=-\sum_{n=0}^{\infty}\frac{c_{-n}}{(z-a)^n}\]という式を得ることができます.
これにより,Laurent展開を得ることができますが,それは次回にして今回はこれで終わります.
複素解析覚書き3-Cauchyの積分定理の補足とか
前回はCauchyの積分定理の特別なバージョンについては証明しました.
今回は正則関数の複素積分をより広い範囲でできるようにすることから始めましょう.
前回凸領域上の正則関数は原始関数を持つことを証明しました.今回はこれを使い連続曲線(PSとは限らない)上の積分がうまく作れることを話します.
凸領域\(D\)上の曲線\(C\colon z(t)\ t\in[a,\ b]\)に対して,正則関数\(f\)の複素積分を原始関数\(F\)を用いて,\[\int_{C}f(z)\ dz=F(z(b))-F(z(a))\]で定義します.
この定義は原始関数の取り方によらないのは明らかなので,この定義に問題はなく,PS曲線ならば本来の複素積分と一致します.
従って,領域が凸ならうまくいきます.しかもこれの良いところは曲線の滑らかさを仮定しなくても良いことです.これの考えが一般の領域でもうまく使えればPS曲線だけに限らずとも複素積分をすることができます.
なのでこの考え方を一般の領域に適用できるように頑張って行きましょう.
まず次の補題を示します
proof
\(d=\inf\{\mid z-z'\mid;\ z\in C,\ z'\in\partial D\}\)として,\(0<r<d\)となるように\(r\)を任意に取ります.
このとき,\(z(t)\)は閉区間\(I\)上連続なので一様連続です.従って,次のようなことが成り立つような\(\delta>0\)が存在します\(\colon\)
\[\forall t,t\in I,\ \mid t-t'\mid<\delta\Rightarrow \mid z(t)-z'(t)\mid<r\]
従って,分割を\(\max\{\mid t_i-t_{i-1}\mid ;\ 1\leq i\leq n\}<\delta\)となるようにとれば(例えば\(N\)を充分大きくとって等分する)凸領域\[D_i=\{z;\ \mid z(t_i)-z\mid<r\}\]は(☆)を満たします.\(\Box\)
この補題により,正則関数の一般領域での複素積分を次のように定義します.\(\colon\)
\[\int_Cf(z)\ dz=\sum_{i=1}^n(F_i(z(t_i))-F(z(t_{i-1})))\]
ただし,\(F_i\)は補題でとった凸領域\(D_i\)上における原始関数です.この定義は(☆)を満たす分割や原始関数の取り方によりません.勿論PS曲線ある場合元の定義と一致します.
従って,正則関数の連続曲線上での複素積分が定義され,前回のホモトープによるCauchyの積分定理におけるホモトピーの\(C^1\)級という仮定は必要がありません.
さてここまでわかったところで,次はCauchyの積分公式についてです.
proof
証明は簡単です.まず,\(0<\varepsilon<R-\mid z-a\mid\)となるように\(\varepsilon\)を任意にとります.
\(D\setminus \{a\}\)上\(B_{\varepsilon}(a)\sim B_R(a)\)で\(\displaystyle\frac{f(z)}{\zeta-z}\)は正則なので,Cauchyの積分定理より,\[\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_R(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta\]が成り立ちます
さらに,\(M=\sup\{\mid f(z)-f(\zeta)\mid;\ z,\zeta\in B_{\varepsilon}(a)\}\)としておくと,\[\left|f(z)-\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta\right|=\left|\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{f(z)-f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta\right|\leq \frac{M}{2\pi}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{1}{\mid \zeta-z\mid }\ \mid d\zeta\mid = M\]
となって,\(\varepsilon\to+0\)とすれば,\(M\to 0\)より,結論を得ます.\(\Box\)
このCauchyの積分公式の恩恵は凄まじく,ここから正則関数が\(C^{\infty}\)級であること,べき級数展開が可能であることなどを導くことができます.次回はそれについてまとめます.
間違い等ありましたらコメントかTwitterでコメントください.
ひとくち数学「ディリクレ積分をゴリゴリっと計算する」
今回はディリクレ積分について最近色んな方法を知ったので今回はなるべく前提知識を仮定しない方法でどれだけできるかを試したいと思います.
基本的なこととして,これはみればわかりますが広義積分です.一見積分範囲の両端がやばいように見えますが,\[\lim_{x\to +0}\frac{\sin x}{x}=1\]である事は承知のとおりだと思うので,実質的に問題なのは\(\infty\)の部分です.まあそのへんを睨みつつ頑張って行きましょう.
で,問題をとく前にですがこれが収束する事は一応確認事項ではあるので確認はしておきましょう.
注意点としてこの積分は絶対収束しません!というのはご存知かと思われますが,これがあるためガバガバっと不等式で抑えることはできません.
ちなみにですが,広義積分\[\int_{0}^{\infty}f(x)\ dx=\lim_{R\to\infty}\int_{0}^Rf(x)\ dx\]なので,広義積分が収束するとは上の極限があれば良いということになります.
しかし,極限値が簡単に求まればわざわざこんなに前置きをして書く事はないので,次を示します:\[R>M,\ \left|\int_{M}^R\frac{\sin x}{x}dx\right|\to 0\ (as\ R,M\to\infty)\]
所謂Cauchyの収束判定法というやつで,これは簡単に示せます.
今,中身を部分積分すると,\[(LHS)=\left| \left[ \frac{-\cos x}{x}\right]_{M}^R-\int_{M}^R\frac{\cos x}{x^2}\ dx\right|\leq \frac{1}{R}+\frac{1}{M}+\int_M^R\frac{1}{x^2}\ dx\to 0\ (as\ R,M\to\infty)\]
ということで収束する事は大丈夫そうです.絶対収束しないことを言うには\(R\)を自然数\(n\)に変えてやってみると出来ると思います.ややテクニカルではありますが.
まあ有名な積分なのでダラダラやっても仕方ないので早速解法に移ります.
で,方法としてはひたすらゴリゴリと計算します.エレガントさはないですが,ある意味こういうゴリ押し計算も解析の醍醐味(?)だったりします.
でアイデアとしては次のようなことをしたいと考えます:
\[\int_{0}^{\infty}\frac{\sin x}{x}\ dx=\int_{0}^{\infty}\left(\int_{0}^{\infty}e^{-xu}\ du\right)\sin x\ dx\]
一見ギョッとしますが,これは\[\int_{0}^{\infty}e^{-xu}\ du=\frac{1}{x}\]になるということを利用した変形で上のことはそのまま積分すればわかります.
さらに良いこととして,ひとまず積分の順序交換を認めて,\(x\)から先に積分すると
\[\int_{0}^{\infty}e^{xu}\sin x\ dx=\frac{1}{u^2+1}\]が2回部分積分をすると得られます.これのいいところは計算結果が\(\tan^{-1}u\)の微分になっているので
\[\int_{0}^{\infty}\frac{1}{u^2+1}\ du=\frac{\pi}{2}\]となってうまく計算ができることにあります.
さてこの交換を正当化するためにまずは\(\infty\)を一旦排除して考えていくことにしましょう.
具体的には\[\int_{0}^{R}\frac{\sin x}{x}\ dx\]をかんがえましょう.今,\(R,M>0\)として,次のように変形します:
\[\int_{0}^{R}\frac{\sin x}{x}\ dx=\int_{0}^{R}\left(\int_{0}^{M}e^{-xu}\ du\right)\sin x\ dx+\int_{0}^{R}\frac{\sin x}{x}e^{-Mx}\ dx\]
まず,この変形について説明すると先ほどの積分を増やす操作を\(M\)で一旦止めてやってみました.しかしこれでは\(\infty\)の時は消えてくれていたものがのこるので,それを打ち消すための第2項目がでてきます.
ここで第一項目は\(e^{-ux}\sin x\)が連続なので,積分の順序交換を簡単に行うことができます.有限で止めたのはこのためです.
しかし,その弊害として余分な第二項目が出てしまったわけですがこれは\(M\)の極限を取ることで消すことができます.
実際,\[\left|\int_{0}^R\frac{\sin x}{x}e^{-Mx}\ dx\right|\leq \int_{0}^{R}e^{-Mx}dx=-\frac{e^{-MR}}{M}+\frac{1}{M}\to 0\ (as\ M\to\infty)\]となります.
従って,ここまでで,結論の半分である\[\int_{0}^R\frac{\sin x}{x}\ dx=\int_{0}^{\infty}\left(\int_{0}^Re^{-ux}\sin x\ dx\right)\ du\]がわかりました.
次に,\[\int_0^Re^{-ux}\sin x\ dx=\frac{1}{u^2+1}-\frac{e^{-Ru}}{u^2+1}(\cos R+u\sin R)\]
となり,第二項目の積分\[\int_{0}^{\infty}\frac{e^{-Ru}}{u^2+1}(\cos R+u\sin R)\ du\]が\(0\)に収束すれば結論が得られるのでそれを示します.
今,\(\mid\cos R+u\sin R\mid \leq 1+u\)が成り立つので, \[\left|\int_{0}^{\infty}\frac{e^{-Ru}}{u^2+1}(\cos R+u\sin R)\ du\right|\leq \int_{0}^{\infty}\frac{e^{-Ru}}{u^2+1}\mid\cos R+u\sin R\mid\leq\int_{0}^{\infty}\frac{e^{-Ru}}{u^2+1}(u+1)\ du\leq \int_{0}^{\infty}(u+1)e^{-Ru}\ du\]となり,これは\(R\to\infty\)のとき\(0\)に収束するので結論が得られました. \(\Box\)
ということでゴリゴリと計算することで今回は極限値を求めましたが,これよりも楽に求める方法はいくらでもあるので,これにこだわる必要はない気がしますが,これもまた一つの解法としてとても良いと感じなので書いてみました.
以上で今回は終わります.