最近読んだ本についてダラダラと
お久しぶりです. このブログもいつぶりに書くのか全くわかりませんが, 今日は最近読んでる本とかを紹介しようかなと思います.
ヒルベルト空間と量子力学 改訂増補版 (共立講座 21世紀の数学 16)
- 作者: 新井朝雄,木村俊房,飯高茂,西川青季,岡本和夫,楠岡成雄
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 2014/07/25
- メディア: 単行本
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まあ僕は解析の人なので紹介する本ってなると解析の本になるわけですが, 今回はこの本のいいなぁって思ったところをダラダラと書こうと思います. ダイマですね.
この本をオススメするポイントとしては関数解析の入門書としてはちょうどいいかなってところですかね. ベクトル空間から始まって, 非常に基本的なところから丁寧に書いてある本です. まあ1年2年でしっかり数学をやってる人にとってはくどいと思いますが.
ただまぁ、解析の本なのでルベーグ積分はバンバン使います. でも多分この本を読む人って解析に多少なりとも興味がある人だと思うのでルベーグ積分くらいは知ってるでしょうけど. もし忘れていても付録に必要な定理は載っているので安心ですね.
一章のざっくりした内容は, ヒルベルト空間の定義とその具体例や, 完全正規直交系などです. あと重要なのは\(L^2\)で\(C_0^{\infty}\)が稠密ってことですかね. これめっちゃ使うんですけどこの本ではそこは少しだけ端折ってます. 具体的には\(C_0\)が\(L^2\)で稠密ってとこの証明ですね. でもまあこれは超有名な伊藤清三先生のルベーグ積分入門に書いてあるのでそちらを参照すれば問題ないです. あと一番最後の完備化の話は個人的な意見ですが飛ばしても後半に差支えがないです. 知っておいたほうがいい内容ですが, とてつもなく重要というわけではないので話程度に読むのがいいかなって感じです. そこそこ大事なんですけどね.
2章からはいよいよ線形作用素が出てきて関数解析が始まった感が出てきます. 正直いうと1章の内容は結構地味なので, 2章はそれに比べると楽しい定理が盛りだくさんです. リースの表現定理とかは初めてやったときはすげーってなると思います. 僕はなりました. スペクトルとレゾルヴェントの話とか自己共役作用素の話もちょくちょく出てきますのでそのへんも面白いです. ただ自己共役作用素が主役になるのは3章ですね. あとはコンパクト作用素ですかね. ヒルベルト-シュミットの展開定理とかはまんま対角化じゃん!ってなると思います.
3章はいよいよ作用素解析とスペクトル定理です. 関数解析をやる際に絶対に逃げられないものとしてスペクトル定理があります. これは簡単に言うと行列の対角化の一般化みたいなもので, 行列が対角化することでわかりやすくなったように, 自己共役作用素もスペクトル定理を使うことでいろいろわかります.実を言うと2章でやったヒルベルト-シュミットの定理もこの定理の特別なバージョンです. ただし証明はさすがにやりません. というか長すぎるのでできません. 証明は色々な本に載っていますが, 僕が読みやすかったのは
この本です. まぁほかにも載っている本はいろいろあります. それはともかくとして, このスペクトル定理によって, 自己共役作用素のいろいろとわかります. またこのスペクトル定理によってのちのちの量子力学の方にも影響があります.
とまぁ3章まで書いてだいぶ疲れたので, 一旦ここで区切ります. もし4章以降の感想が聞きたい方がいらっしゃいましたらコメントかtwitterでお気軽にお声かけください.
あと今回全く式出してないんですが、僕の話の中でこの定理って何?っていうのがあればその定理の解説とかその応用例とか僕が知ってる限り語りたいと思うのでそのへんも要望あればお願いします.
ひとくち数学「ヒルベルト空間のテンソル」
ちょっとだけ面白いテンソルの話です.
テンソルと聞くと私は代数の加群の話が真っ先に浮かんでくるのですが,皆さんはどうでしょうか?.
で、テンソルというと結局実態がよくわからないことが多いですが、今回は実態の分かるものがあるという話ができたらいいなぁって感じです.
先程からテンソルと何度も言っていますが,一応いろんな定義があるので私がいうテンソルを一応定義しておきましょう.
このようにこの定義も完備化なので実態は結局のところあまりつかめないです.
しかし,このテンソル積の特徴として次のことがわかります:
この性質があるので,テンソルそのものは掴めなくても同型であるものはつかむことができる空間があります.
今回は\(H_1=L^2(\mathbb{R}^n)\)と\(H_2=L^2(\mathbb{R}^m)\)として,テンソルを考えましょう.
まず,\(\{e_i(x)\},\ \{h_j(y)\}\)を\(H_1,\ H_2\)の正規直交基底とするとき,\(\{e_i(x)h_j(y)\}_{i,\ j}\)が\(L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)の正規直交基底となることを示します.
正規直交系となることはすぐわかるので,完全性を示しましょう.
完全性とはすなわち,\(\langle f,\ e_ih_j\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)}=0\)が任意の\(i,\ j\)で成り立つならば,\(f=0\)であることです.
まず\(\langle f,\ e_ih_j\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)}=0\)が任意の\(i,\ j\)について成り立っているので,
\[\langle f,\ e_ih_j\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)}=\left\langle\langle f(x,\ y)\ ,e_i\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n)}\ ,\ h_j\right\rangle_{L^2(\mathbb{R}^m)}=0 \]
より\(\{h_j\}\)の完全性から,ある\(\mathbb{R}^m\)上の零集合\(N_i\)が存在して,任意の\(y\in\mathbb{R}^m\setminus N_i\)に対し,\(\langle f(x,\ y)\ ,e_i\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n)}=0\)となります.
従って,\(N=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}N_i\)とすれば,任意の\(y\in\mathbb{R}^m\setminus N\)にと任意の\(i\in\mathbb{N}\)に対して,\(\langle f(x,\ y)\ ,e_i\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n)}=0\)が成り立ちます.
これより,今度は\(\{e_i\}\)の完全性より,\(y\in\mathbb{R}^m\setminus N\)に対して,\(f(x,\ y)=0\ (a.e. x\in\mathbb{R}^n)\)となります.
故に,\[\int_{\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m}\mid f(x,\ y)\mid\ dxdy=\int_{\mathbb{R}^m\setminus N}\left(\int_{\mathbb{R}^n}\mid f(x,\ y)\mid\ dx\right)dy=0\]より,\(f(x,\ y)=0\ (a.e.(x,\ y)\in\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)となるので,正規直交基底であることが分かります.\(\Box\)
さらに内積を考えれば,\(L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)の内積と\(H_1\bigotimes H_2\)の内積は値として一致することがわかります.
したがって,\(e_ih_j\mapsto e_i\otimes h_j\)と対応させれば,ヒルベルト空間として同型であることがわかります.
なので実質的に\(L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)がテンソル積だと考えることができるので実態は割と容易にわかります.
なにより有用な結果としては正規直交基底同士の積が正規直交基底になるという事実ですね.
Hilbert-Schmidt作用素を調べるときに使ったりします.\(L^2(\mathbb{R}^n)\)上のHS作用素はすべて積分作用素でかけるので割と強いです.
といったところで私がテンソルについて知ってることはすべて話したので終わります.ありがとうございました.
関数解析を雑に復習する3
§3 \(L^P\)空間のいろいろ
今回は\(L^P\)空間について基本的な事を扱っていこうと思います.
そして今更ですが,Lebesgue積分の知識はある程度仮定していますので其の辺はよろしくお願いします.
私自身がそのへんがモヤモヤし始めたらまとめようとおもいます.
ではまず,\(L^p\)空間の定義についてですね.
--Remark--
\(f\in L^{\infty}(\Omega)\)となるとき,\(f\)は本質的に有界(essentialy bounded)であるという.また上のような\(M\)を本質的上界といい,その\(\inf\)を\(ess\sup_{x\in\Omega}\mid f(x)\mid\)で表す.
--End of Remark--
上では一応\(L^{\infty}\)を定義しましたが基本的には\(1\leq p<\infty\)のときのみ考えることが多いです.
さて,早速やって行こうと思うのですが,以下では\(u=v\ a.e.\)なるものは同一視して話を進めます.その理由は後ほど話します.
--Remark--
\(\Omega\)についての話であることが明らかな時はノルムの添字を省略して,単に\(\|\cdot\|_p\)と書く事も多い.
--End of Remark--
これを示す前に二つほど,不等式について述べておきましょう.
もう一つはMinkowskiの不等式ですね.
この二つの不等式については,\(\ell^p\)の時と同様にして示すことができますので証明はしません.
proof of Theorem3.2
Step1\(L^p\)はベクトル空間.
まず,\(L^p\)が標準的な和とスカラー倍で\(\mathbb{C}\)ベクトル空間となることはMinkowskiの不等式などを用いればわかります.
Step2 \(L^p\)はノルムベクトル空間
次にノルム空間であることを示しましょう.三角不等式はMikowskiの不等式そのものですし,スカラー倍が前に出せることもよいでしょう.また,ノルムの非負性は定義と積分の単調性により従います.よって,\(\|f\|=0\Rightarrow f=0\ \ (a.e.)\)のみ示せば十分です.
先ほどの同一視はここに関係があって,それによってノルム空間となります.\(a.e.0\)でも真に\(0\)とは限りませんからね.より神経質になるなら同値類を持ち出す必要がありますが,それは好みの問題なのでお任せします.(がばがば)
今,\(\|f\|=0\)としましょう.このとき,\(\Omega (\mid f\mid >a)=\{x\in \Omega;\ \mid f(x)\mid>a\}\)とおきます.
さて,\(\Omega(\mid f\mid>0)=\bigcup_{n=1}^{\infty}\Omega\left(\mid f\mid>\frac{1}{n}\right)\)となるので,\[0=\|f\|^p_p>\int_{\Omega(\mid f\mid >1/n)}\mid f(x)\mid ^p\ dx>\frac{1}{n^p}\mu\left(\Omega(\mid f\mid>\frac{1}{n}\right)\]より,\(\mu\bigl(\Omega (\mid f\mid>1/n\bigr)=0\)がわかります.よって,劣加法性によって,\[\mu(\Omega(\mid f\mid>0))\leq \sum_{n=1}^{\infty}\mu\left(\Omega(\mid f\mid>\frac{1}{n}\right)=0\]となるので,\(f=0\ (a.e.)\)となります.よって,ノルムベクトル空間となります.
Step3 \(L^p\)はBanach空間
完備性は非常に巧妙に収束先を構成します.
まず,\(\{f_n\}\)を\(L^p(\Omega)\)が\(\forall \varepsilon>0,\ \exists N\in\mathbb{N};\ n,\ m\geq N\Rightarrow \|f_n-f_m\|_p<\varepsilon\)を満たすとしましょう.
この時\(\forall k\in\mathbb{N},\ \|f_{n(k+1)}-f_{n(k)}\|<1/2^k\)を満たす部分列\(\{f_{(n(k)}\}\)を構成することができます.
今Cauchy列の定義において,\(\varepsilon=1/2\)としましょう.このとき,\[\exists n(1)\in\mathbb{N};\ n>n(1)\Rightarrow \|f_n-f_{n(1)}\|<\frac{1}{2}\]が成立します.さてこのようにとった番号\(n(1)\)に対して,今度は\(\varepsilon=1/2^k\)としてやれば,\[\exists n(2)>n(1);\ n>n(2)\Rightarrow \|f_n-f_{n(2)}\|<\frac{1}{2^2}\]と出来ることが分かります.よってあとはこれを繰り返して,\(n(k)<n(k+1)\ (k\in\mathbb{N})\)であって,\(n>n(k)\Rightarrow \|f_n-f_{n(k+1)}\|<1/2^k\)となり,特に\(n=n(k+1)\)とすれば良いことがわかります.
今,上のような部分列を改めて\(\{f_k\}\)と書く事にして,\(f_0(x)=0\)とし\[g_k(x)=\sum_{j=1}^{k}\mid f_j(x)-f_{j-1}(x)\mid\]と定めましょう.このとき,\(\{f_k\}\subset L^p(\Omega)\)とMinkowskiの不等式を用いることで,\(g_k\in L^p(\Omega)\)となります.
\[\|\lim_{n\to \infty}g_k\|^p=\lim_{k\to\infty}\|g_k\|\leq (\|f_1\|+1)^p<\infty\]により,ほとんどいたるところ有限な関数\(g=\lim_{k\to\infty}g_k\in L^p\)が存在します.
ここで,\[f_k(x)=\sum_{j=1}^{k}(f_j(x)-f_{j-1}(x))\]なので,\(f_k\)はほとんどいたるところ絶対収束します.故に\(\{f_k\}\)はある関数\(f\)にほとんどいたるところ各点収束することがわかります.
特に,今,\(\mid f(x)\mid\leq g(x)\ a.e \)より,\(f\in L^p\)で,\[\mid f(x)-f_k(x)\mid\leq \sum_{j\geq k}\mid f_j(x)-f_{j-1}(x)\mid\leq g(x)\]が成り立つことがわかります.故にLebesgueの優収束定理から\[\lim_{k\to\infty}\|f-f_k\|^p=\int_{\Omega}\lim_{k\to\infty}\mid f(x)-f_k(x)\mid^p\ dx=0\]となります.これはすなわち,\(\exists N'\in\mathbb{N};\ k\geq N'\Rightarrow \|f_k-f\|<\varepsilon\)を意味します.
よって,\(N\)を十分大に取り直せば,\(n\geq N\)に対して,\(\|f_n-f\|\leq \|f_n-f_n(k)\|+\|f_{n(k)}-f\|<2\varepsilon\)となるので収束列であることがわかり,完備であることが示されました.\(\Box\)
完備性の証明がやたらと長いですが,この証明の副産物として次の系を得られます.
proof
収束列はCauchy列なので,Theorem3.2と同様の議論によってある部分列\(\{f_{n(k)}\)を構成してやれば,ほとんどいたるところ各点収束します.
よって,その収束先を\(g\)とおけば,\(\|f-g\|_p\leq\lim_{k\to\infty}(\|f-f_{n(k)}\|_p+\|g-f_{n(k)}\|)=0\)となるので,\(f=g\ (a.e.)\)となります.\(\Box\)
それと,\(L^p\)の直ちにわかる性質をひとつだけ述べて今回は終わりにしましょう.
これはHölderの不等式からすぐわかるので省略します.
といったところで,今回は終わりたいと思います.次回も\(L^p\)について(稠密性やmollifierなどを予定)やっていこうと思います.
本当は作用素の話をちょっとしたかっただけなんですけど,いつになったらでてくるのやら・・・・
関数解析を雑に復習する2
§2 正射影定理
まずは今後何かと便利な正射影定理を示していこうと思います.
その前にいくつか基本的な位相の概念を導入しましょう.
--Remark--
\((1)\ D\subset \overline{D}\)
\((2)\ D\)が閉集合\(\Leftrightarrow\)\(D\)の任意の収束列\(\{x_n\}\)に対し,\(\lim_{n\to \infty}x_n\in D\)
--End of Remark--
またコンパクト性についても先に定義しておきましょう.
解析では上のようにコンパクト性を定義することが多いです.(まあどうせノルム空間しか扱わないしよくね的なノリ)
これらに関して基本的な性質をまとめておきましょう.
--Remark--
無限次元ベクトル空間では有界閉集合であってもコンパクトであるとは限らない.それについては次の記事を参照.
--End of Remark--
これはさすがに証明は容易と言っていいレベルなので飛ばして先に進みましょう.
さて,ここからは内積空間において重要な閉部分空間についてです.
ここからは直交補空間の基本的な性質をまとめましょう.
proof
\((1)\)についてまず示しましょう.任意の収束列\(\{x_n\}\)をとり,収束先を\(x\)とします.
このとき,内積の連続性から,\(y\in M\)に対して,\[\langle x\ ,\ y\rangle=\lim_{n\to \infty}\langle x_n\ ,\ y\rangle=0\]となるので,\(x\in M^{\perp}\)となります.
\((2)\)は\(u\in M\)ならば\(u\in N\)ですから,\(v\in N^{\perp}\)とすれば,\(\langle u\ ,\ v\rangle=0\)となるのでわかります.
\((3)\)は\((2)\)より,\(\Bigl(\overline{M}\Bigr)^{\perp}\subset M^{\perp}\)はすぐにわかります.
逆の包含関係を示します.\(x\in M^{\perp}\)と\(y\in \overline{M}\)を任意に取りましょう.
閉包の定義より,\(\lim_{n\to \infty}y_n=y\)なる\(\{y_n\}\subset M\)が存在します.従って,内積の連続性により,\[\langle x\ ,\ y\rangle=\lim_{n\to\infty}\langle x\ ,\ y_n\rangle=0\]より\(x\in \Bigl(\overline{M}\Bigr)^{\perp}\)となります.よって,\((3)\)も示されました.\(\Box\)
さて,基本的な性質を示したところで本題に入るために集合と点の距離を定義しましょう.
これに関して次のことが成り立ちます.
--Remark--
上の定理の\(x_M\)を\(x\)の正射影という.
--End of Remark--
proof
証明はそこそこ長いですが,一つ一つはそこまで難しくはありません.まず,次を示します:
\[\forall x\in H,\ \exists! x_M\in M;\ \|x-x_M\|=d(x,\ M)\ \ \ (\star)\]
今以下\(x\)を固定して,\(d=d(x,\ M)\)とおきましょう.さて,\(\inf\)の定義により
\[\forall \varepsilon>0;\ \exists y\in M;\ d+\varepsilon>\|x-y\|\]が成り立ちます.
従って特に\(\varepsilon=1/n\ (n\in\mathbb{N})\)とすれば,\[\exists y_n\in M;\|x-y_n\|-d<\frac{1}{n}\]となることがわかります.
これより,\(\lim_{n\to\infty}\|x-y_n\|=d\)となります.今\(\{y_n\}\)がCauchy列となることを示しましょう.
今\(H\)はHilbert空間なので,中線定理を使うことができます.従って,\[\|y_n-y_m\|^2=\|(y_n-x)-(y_m-x)\|^2=2\|y_n-x\|^2+2\|y_m-x\|^2-4\left\|\frac{y_n+y_m}{2}-x\right\|\]
さて,\(M\)が部分空間となるので\((y_n+y_m)/2\in M\)であり,また\(\forall y\in M,\ \|x-y\|\geq d\)であることから,
\[\leq 2\|y_n-x\|^2+2\|y_m-x\|^2-4d^2\to 4d^2-4d^2=0\]となることがわかります.従って,\(\{y_n\}\)はCauchy列となります.よって完備性より,\(\{y_n\}\)の収束先\(x_M\)が存在します.
\(M\)が閉であるから\(x_M\in M\)であって,ノルムの連続性から,\(\|x-x_M\|=\lim_{n\to\infty}\|x-y_n\|=d\)を得ます.
また\(d=\|x-y_M\|\)なる\(y_M\)がほかにあったとすると,\[\|x_M-y_M\|^2\leq 2\|x_M-x\|^2+2\|x-y_M\|^2-4d^2=4d^2-4d^2=0\]より\(x_M=y_M\)となります.
さて,\((\star)\)のような\(x_M\)が取れるので,そこで,\(x_1=x_M,\ x_2=x-x_M\)と定義するとこれが求めるものとなります.
そのためには\(x_2\in M^{\perp}\)を示せばいいわけですが,\(z\in M,\ t\in\mathbb{R}\)を任意に取りましょう.
\(\|x_2\|=d\)と,\(x_1+tz\in M\)に注意すれば,\[d^2\leq\|u-u_1-tz\|^2=\|u_2-tz\|^2=d^2-2\Re(\langle u_2\ ,\ z\rangle)t+t^2\|z\|^2\]となるので,判別式より\(\Re(\langle u_2\ ,\ z\rangle)=0\)です.
あとは,\(z\)を\(iz\)に置き換えれば虚部も\(0\)になることが同様にしてわかるので,\(\langle x_2\ ,\ z\rangle=0\)であることがわかり,これで証明が終わります.\(\Box\)
最後に正射影定理からすぐに従う命題をいくつか扱って終わりにしましょう.
proof
\((1)\)をまず示しましょう.proposition2.5\((3)\)より,\(\overline{M}\subset (M^{\perp})^{\perp}\)となることはわかるのでその逆の包含関係を示せば十分です.
今,\(x\in(M^{\perp})^{\perp}\)とすると,\(\overline{M}\)が閉部分空間であることから,正射影定理を適用して,\[x=x_1+x_2\]なる\(x_1\in\overline{M},\ x_2\in M^{\perp}\)があります.
このとき,\(x-x_1=x_2\)で,\(x-x_1\in (M^{\perp})^{\perp},\ x_2\in M^{\perp}\)であって,\((M^{\perp})^{\perp}\cap M^{\perp}=\{0\}\)より,\(x=x_1\)となるので,\(x\in \overline{M}\)となります.
従って,\((1)\)の証明はこれで終わります.次に\((2)\)を示します.
\(\Leftarrow )\)はproposition2.5\((3)\)及び\((1)\)より直ちにわかります.
\(\Rightarrow )\)を示しましょう.\(x\in M^{\perp}\)を任意に取ると,proposition2.5\((3)\)と仮定から\[\langle x\ ,\ x\rangle=\|x\|^2=0\]より,\(x=0\)となるので結論を得ます. \(\Box\)
次回以降は超重要な空間の\(L^p\)空間について話していこうと思います.(おそらく3回くらいは最低でもやる気がします.この辺の空間を調べるのが結構しんどいですがこれが終われば楽しい楽しい一般論がまってます.)
今回はこれで終わります.間違い等ございましたらご指摘願います.
関数解析を雑に復習する1
§0 はじめに
関数解析のざっくりとした復習を兼ねて暇なときにできたらいいな(かなわぬ願い)
関数解析って結局何をやってるのさ?という話だけまずざっくりと、というか私の個人的な考えを話しておきます.よく巷では"無限次元の線形代数"と言われることが多い関数解析ですが実際線形写像がメインテーマではあります.
それはなぜかというと,微分積分ってどっちも線形性があるというのがあります.解析の主役とも言っていいこの二つが線形性を持ってるのだからそのへんの関数空間上の線形写像を調べたくなるというのは割と自然だと思います.
つまり,其の辺の線形性をもつ奴らをもっと一般的に見て微分方程式とか積分方程式とかそのへんが解けたらうまあじでは?というのがモチベーションになると思います.(ガバガバ)
で実際やってみると,え,これ線形代数でなんか見たことあるってなるので無限次元の線形代数という一言につながるわけです.勿論線形代数と違うところもいっぱいありますけどね.
つまり関数解析の舞台はノルムベクトル空間(大体BanachもしくはHilbelt空間)で主役は線形写像ということです.なので流れとしては舞台及び道具を用意するのが前半で主役を性質の良い順から調べていくという感じのよくあるパターンです.
まぁとりあえずそのへんを頭に入れながら少しずつやっていきましょう.おそらく話のしやすさ的にHilbert空間を中心に話すことになりますが,一般のBanach空間で成り立つ事実はなるべく一般の形で述べようと思います.
いきなりですが,Banach空間までの定義は過去の記事に書いてあるので適時参照してもらえると助かります.また無限次元のBanach空間の有名な例として\(\ell^p\)があるのでそのへんも一緒に見てくれたら幸いです.
§1 Hilbert空間の基礎事項
まずは基本的な話からしていきましょう.以下,単にベクトル空間といったときは複素係数を意味します.
さて,内積にはどことなくノルムに似た性質を持っているのですが,実は内積空間は\(\|x\|=\langle x\ ,\ x\rangle^{\frac{1}{2}}\)と置くことでノルム空間にすることができます.
そのためにひとつだけ補題を用意します.
proof
証明はそれほど難しくないです.まず,\(\alpha\in\mathbb{C},\ x,\ y\in X\)を任意にとります.このとき,\[0\leq\|\alpha x+y\|^2=\mid\alpha\mid^2\|x\|^2+2\Re(\alpha\langle x\ ,\ y\rangle)+\|y\|^2\](ただし,\(\Re\)は実部を表す.)
となります.元の不等式の左辺が\(0\)の場合は明らかのなので,そうでないとするとき\[\alpha=\frac{\overline{\langle x\ ,\ y\rangle}}{\mid \langle x\ ,\ y\rangle\mid}t\ \ (t\in\mathbb{R})\]とすれば先ほどの式より,
\[\|x\|^2t^2+2\mid \langle x\ ,\ y\rangle\mid+\| y\|^2\geq 0\]となります.よって判別式により結論を得ます. \(\Box\)
これによって,\(\|\cdot\|\)がノルムとなることがわかります.三角不等式以外はわかるので三角不等式を示しましょう.
\(\|x+y\|^2=\langle x+y\ ,\ x+y\rangle=\|x\|^2+\|y\|^2+2\Re(\langle x\ ,\ y\rangle)\leq\|x\|^2+\|y\|^2+2\mid\langle x\ ,\ y\rangle\mid\leq(\|x\|+\|y\|)^2\)
従ってノルムであることがわかります.また,シュワルツの不等式から,内積の連続性を示すことができます.
すなわち,\(\{x_n\}\)を\(\|x_n-x\|\to 0\ (as\ n\to\infty)\)とするとき,任意の\(y\in H\)に対して,\[\mid\langle x_n-x\ ,\ y\rangle\mid\leq \|x_n-x\|\|y\|\to 0\ (as\ n\to\infty)\]がわかります.(これは第二成分についても同様)
さてノルムであることがわかったことによってHilbert空間を定義することができます.
上の定義からHilbert空間はBanach空間の一種であることはわかると思いますが,このHilbert空間は非常に綺麗に話がまとまる空間なので非常に重要です.
簡単な例を示しておきましょう
(1)は明らかですし,(2)も過去に完備性はやっているのでチェックはそう難しくないと思います.内積にちゃんとなっていることだけチェックすればよいので暇だったらやってみてください.
さて,Hilbert空間の簡単な例は上げましたが,Banach空間だとしてもHilbert空間でないものが存在します.
それではどんなときにBanach空間はHilbert空間になるのでしょうか?それを示すのが次の定理です.
いわゆる中線定理というやつです.これが成立することがHilbert空間になる必要十分条件になります.
proof
まず\(X\)がHilbert空間であるとします.
このとき,\[\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=\|x\|^2+\|y\|^2+2\Re(\langle x\ ,\ y\rangle)+\|x\|^2+\|y\|^2-2\Re(\langle x\ ,\ y\rangle)=2(\|x\|^2+\|y\|^2)\]となり中線定理を満たします.
逆に中線定理が成り立っていると仮定します.このとき\[\langle x\ ,\ y\rangle=\frac{1}{4}(|x+y\|^2-\|x-y\|^2)+\frac{i}{4}(\|x+iy\|^2-\|x-iy\|^2)\]と定義するとこれが内積となります.もちろん\(i\)は虚数単位つまり,\(i^2=-1\)を満たします.
\(x=y\)の時は明らかに\(\|x\|\)に一致するので内積の定義の(3)はよいでしょう.
また(2)についても後ろの2項のノルムの中の\(i\)をくくり出すことでわかります.
従って第一成分に関する線形性を示せれば証明が終わります.さてまず,\(\langle x\ ,\ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle\)を考えましょう.
\[ \langle x,\ \ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^3i^k(\|x+i^kz\|^2+\|y+i^kz\|^2)\]
となります.本当は\(\sum\)の形で書きたくなかったのですがうまく表示ができませんでした(力不足)
そこは適時脳内補完してもらうとして,中線定理から次のことがわかります.
\[\|x+z\|^2+\|y+z\|^2=\frac{1}{2}(\|x+y+2z\|^2+\|x-y\|^2),\ \|x-z\|^2+\|y-z\|^2=\frac{1}{2}(\|x+y-2z\|^2+\|x-y\|^2)\]
従って,上の\(\sum\)の\(k=0,2\)のときを合わせると,\(1/8(\|x+y+2z\|^2-\|x+y-2z\|^2)\)となることがわかります.
同様に残った項を中線定理で分解してからたし合わせると,\(i/8(\|x+y+2iz\|^2-\|x+y-2iz\|^2)\)となるのでこれと合わせて,
\[\langle x,\ \ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle=\frac{1}{2}\langle x+y\ ,\ 2z\rangle\]を得ます.さてここで,\(y=0\)とすると,\[\langle x\ ,\ z\rangle=\frac{1}{2}\langle x\ ,\ 2z\rangle\]となりますが,さらにここで,\(x\)を\(x+y\)に書き換えれば
\[\langle x+y\ ,\ z\rangle=\frac{1}{2}\langle x+y\ ,\ 2z\rangle=\langle x,\ \ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle\]となります.従って,あとは係数が前に出せれば証明が終わるわけですが,上の等式を用いれば有理数までは前に出せることがわかります.
また実数に関しては有理数の稠密性とノルムの連続性により前に出すことができることがわかります.
従って,あとは複素数が前に出せれば証明が終わるのですが,複素数は\(a+ib\)という形をしているので\(i\)さえ前に出せることが分かればよさそうです.
実際計算してみると,\[\langle ix\ ,\ y\rangle=\frac{1}{4}(\|ix+y\|-\|ix-y\|^2)+\frac{i}{4}(\|ix+iy\|^2-\|ix-iy\|^2)\]
なので,\[\|ix+y\|-\|ix-y\|^2=-(\|x+iy\|^2+\|x-iy\|^2),\|ix+iy\|^2-\|ix-iy\|^2=\|x+y\|^2+\|x-y\|^2\]に注意すれば
\[\langle ix\ ,\ y\rangle=i\langle x\ ,\ y\rangle\]であることがわかります.よって内積であることが示されました.\(\Box\)
この中線定理によってHilbert空間になるかどうかをチェックすることができます.
\(\ell^p\)において,\(p=3\)の時を考えましょう.念のためノルムは\(x=\{x_n\}\in\ell^3\)に対して,\[\|x\|_{\ell^1}=\sum_{n=1}^{\infty}\mid x_n\mid\]です.
ここで,\(x=(1,\ -1,\ 0,\ \cdots),\ y=(-1,\ 1,\ 0,\ \cdots)\)とします.つまり第3項目からはすべて\(0\)となるような数列二つについて中線定理を考えましょう.
このとき,\(\|x\|_{\ell^1}^2=\|y\|_{\ell^1}^2=2,\ \|x+y\|_{\ell^1}^2=0,\ \|x-y\|_{\ell^1}^2=16\)となるので中線定理は成り立ちません.
従って,\(\ell^1\)はBanach空間ではありますが,Hilbert空間にはなりません.一般に\(p=2\)の時しかHilbert空間にならないことが知られています.(上と同じように証明できます.)
ところで,Banach空間だけども,Hilbert空間にならない例は分かりましたが,内積空間ではあるが,Hilbert空間とならないような空間はあるのでしょうか?
次はその例について少し考えましょう.
--余談--
この例について話す前に,完備性について少し話しておくと,実はこの空間は\(\sup\)ノルムに関しては完備になります.
ですが,\(\sup\)ノルムには良くないことがあって,近似がうまくできないことです.近似は解析ではよくある手法で,一旦元の関数をよりよい性質の関数列で近似しておいてから元に戻すということをします.
完備であるということは逆に言えば\(\sup\)ノルムでは連続関数よりもゆるい条件の関数は連続関数では近似できないということになってしまいます.
従っていろんな関数を扱う上で\(\sup\)ノルムは都合が悪いのです.こういったところに上のノルム, \(L^2\)ノルムというのですが,これを扱うモチベーションがあるのだと思います.
もちろん,\(C(I)\)では考えている場所が狭すぎて完備とならないわけですが,その穴を補ったのが\(L^2\)空間ということになります.
--閑話休題--
まず,内積となることについて考えましょう.内積の定義の\((1),\ (2)\)は良いと思うので,\((3)\)のみ示しましょう.
非負性はよいので,\(\|u\|=0\)と仮定しましょう.このとき,\(u(x)\neq 0\)なる点があるなら,被積分関数が連続なとき,積分には強単調性があるので,\(\|u\|>0\)となって矛盾します.
(あるいはより一般的な話から連続関数が\(u=0\ a.e\)であるならば\(u\)は真に\(0\)という議論をしても良いと思います.)
従って,\(u=0\)であることがわかります.ゆえに内積となります.
次に完備でないことを示します.\(n\in\mathbb{N}\)に対して,\[f_n(x)=\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} 0\ \ (0\leq x<\frac{1}{2})\\ \sqrt{n}(x-\frac{1}{2}) (\frac{1}{2}\leq x<\frac{1}{2}+\frac{1}{\sqrt{n}})\\ 1\ \ (\frac{1}{2}+\frac{1}{\sqrt{n}}<x\leq 1) \end{array} \right. \end{equation}\]
とおけば,これは連続関数となります.また,\(n\geq m\)とするとき,\[\|f_n-f_m\|^2\leq\frac{2}{3}\frac{1}{\sqrt{n}}+\frac{1}{3\sqrt{m}}\to 0\ (as\ n,\ m\to\infty)\]
となるのでCauchy列となることがわかります.一方で,\[f(x)= \begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} 0 (0\leq x\leq\frac{1}{2}) \\ 1 (\frac{1}{2}<x\leq 1) \end{array} \right. \end{equation}\]
に各点収束します.ここで,もし\(f_n\)がある\(I\)上の連続関数\(g\)に\(\|\cdot\|\)に関して収束すると仮定しましょう.
このとき,\(\{f_n\}\)の部分列でほとんどいたるところ\(g\)に各点収束するような部分列\(\{f_{n(k)}\}\)が存在します.
このような部分列の存在は\(L^p\)空間の時に議論することにして話を進めると,元々\(\{f_n\}\)は\(f\)に各点収束してることから,\(f=g\ (a.e.)\)となります.
今,\(g\)の連続性により\[\exists\delta>0;\ \forall x\in [\frac{1}{2}-\delta,\ \frac{1}{2}+\delta],\ \mid g(x)-g(\frac{1}{2})\mid<\frac{1}{2}\]が成り立ちます.
今,\([1/2-\delta,\ 1/2]\)のLebesgue測度は\(0\)でないので,この閉区間内に\(f(x_0)=g(x_0)\)となる\(x_0\)が存在します.
同様に,\((1/2,\ \delta+1/2]\)のLebesgue測度も\(0\)でないのでこの区間内に\(f(x_1)=g(x_1)\)なる\(x_1\)が存在します.
従って,\[1=\mid f(x_0)-f(x_1)\mid \leq \mid f(x_0)-g(\frac{1}{2})\mid +\mid f(x_1)-g(\frac{1}{2})\mid <1\]となり矛盾が生じます.(このあほくさ不等式狂おしいほど好きです)故に\(\{f_n\}\)は\(\|\cdot\|\)に関して連続関数に収束しないことがわかります.
これによって\(C(I)\)内に収束しないCauchy列の存在がわかったので,完備でないことが示されました.\(\Box\)
今回はこれで終わります.もし議論に誤り等ございましたら御手数ですがご指摘願います.