数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

例をあげるだけ

今回は例を上げろと言われたら役に立つかもしれないメモです.

その1 完備でない無限次元ノルムベクトル空間

念のため,ノルム空間等の定義は私の記事

troy-sugaku-t.hatenablog.com

に書いてあります.

まぁ,記事を改めて読み直すほどのものでもないので,さっと定義だけ見てもらえればいいと思います.

ところで,完備でないノルム空間の例ですが,有限次元だと真っ先に\(\mathbb{Q}\)が思いついてしまうので,無限次元で考えることにしましょう.

簡単に思いつくところでは次が挙げられます.

Example\([0,\ 1]\)上の実数値連続関数全体の集合\(C[0,\ 1]\)は\(L^1\)ノルム\(\|\cdot\|_1\)に関して,ノルムベクトル空間となるが,完備でない. ただし,\(L^1\)ノルムとは,関数\(f\)に対し,\[ \|f\|_1=\int_0^1\mid f(x)\mid\ dx\]である.(ただし,この積分はLebesgue積分である.)

 

ノルムベクトル空間になることは良いので,完備でないことを示しましょう.

具体的に言うと,Cauchy列であるが,\(L^1\)ノルムに関して収束列とならないような関数列をとってくれば良いわけですが,次のように定めます:

\[\begin{equation} \forall n\in\mathbb{N},\ f_n(x)= \left \{ \ \begin{array}{l} 0  \Bigl(0\leq x\leq \frac{1}{2}\Bigr) \\ \\ n\Bigl(x-\frac{1}{2}\Bigr)\hspace{20mm}\Bigl(\frac{1}{2}\leq x\leq \frac{1}{2}+\frac{1}{n}\Bigr)\\ \\ 1 \Bigl(\frac{1}{2}+\frac{1}{n}\leq x\leq 1\Bigr) \end{array} \right. \end{equation}\]

と定めると,\(f_n\in C[0,\ 1]\)です.

また,\[\| f_n-f_m\|_1=\int_{0}^{1}\mid f_n(x)-f_m(x)\mid\ dx=\frac{1}{2}\Bigl(\frac{1}{m}-\frac{1}{n}\Bigr)\to 0\ (as\ n\to\infty)\]より,\(\{f_n\}_{n=1}^{\infty}\)は\(c[0,\ 1]\)上のCauchy列です.

さてここで,\(f_n\)は各\(x\in [0,\ 1]\)に対して,\[\begin{equation} \lim_{n\to\infty}f_n(x)=f(x)=\left\{\ \begin{array}{l} \frac{1}{2}\hspace{19mm}\Bigl(0\leq x\leq \frac{1}{2}\Bigr) \\ \\ 1\hspace{20mm}\Bigl(\frac{1}{2}<x\leq 1\Bigr) \end{array} \right. \end{equation}\]となります.

このとき,Lebesgueの有界収束定理より,\(\|f_n-f\|_1\to 0\ (as\ n\to\infty)\)ですが,\(f\not\in C[0,\ 1]\)ですので,\(\{f_n\}_{n=1}^{\infty}\)は収束列とはなりません.

よって,完備でないことが示されました.

この結果が示すことは,結局\(C[0,\ 1]\)は考える範囲が狭すぎて収束しないものができてしまうということです.まぁそうじゃないのが完備なので当たり前ですが.

最後に例の中で使ったLebesgueの有界収束定理を念のため書いておきましょう.

Theorem(Lebesgueの有界収束定理)測度空間を\((\Omega,\mathcal{B},\mu)\)とし,\(E\in\mathcal{B}\)かつ,\(\mu(E)<+\infty\)なる\(E\)上の\(\mathcal{B}\)-可測関数の列\(\{f_n\}_{n=1}^{\infty}\)が一様有界かつ,ある関数\(f\)にほとんどいたるところ収束するならば,\(f_n,f\)は共に\(E\)上積分可能であって,\[\lim_{n\to\infty}\int_E f_n(x)\ d\mu(x)=\int_E f(x)\ d\mu(x)\]が成り立つ.

 

先ほどの場合,各\(f_n,f\)は明らかに\(1\)以下なので,一様有界であって,各点収束しているので定理の主張を満たします.なお連続関数ならば,Lebesgue可測関数です.(通常の意味の積分でも連続関数は積分可能なわけなので,そうじゃないと困るわけですが.)

さて,Lebesgue積分論でぶん殴ってスッキリしたところで次に行きましょう.

その2  有界閉集合だけどコンパクトでない

これは簡単な議論でできます.

\(\ell^p\)空間の\(p=2\)で考えましょう.\(\ell^p\)については上にあげた記事の1に書いてあります.

Example\(\ell^2\)の部分集合\[B=\{x=\{x_i\}_{i=1}^{\infty}\in\ell^2\ ;\ \|x\|_{\ell^2}\leq1\}\]は有開閉集合であるが,コンパクト集合でない.

これが有開閉集合であることはよいでしょう.

ところが,任意の\(n\in\mathbb{N}\)に対し,\[\begin{equation} d_n^{(i)}= \left \{ \begin{array}{l} 1 (i=n) \\ 0 (i\neq n) \end{array} \right. \end{equation}\]

と定めると,\(d_n=\{d_n^{(i)}\}_{i=1}^{\infty}\in B\)より,\(\{d_n\}_{n=1}^{\infty}\)は\(B\)内の点列ですが,

\(n\neq m\)となる任意の自然数\(n,m\)に対し,\(\|d_n-d_m\|_{\ell^2}=\sqrt{2}\)なので,どのように部分列をとってもCauchy列でないことがわかります.

今,\(\ell^2\)は完備なので,Cauchy列は収束列ゆえ,\(\{d_n\}_{n=1}^{\infty}\)は収束部分列を持たないことがわかり,これはコンパクトでないことがわかります.

という感じで,割と簡単に示せました.なお最後の結論は点列コンパクト性とコンパクト性が同値であることがありますが,それはよくご存知でしょう.

最後にもう一つ書いて終わりにしましょう.

その3 可分でないノルム空間

これは次のようにします.

Example\(\mathbb{R}\)上の有界関数全体の集合\(L^{\infty}(\mathbb{R})\)は\(\sup\)ノルム\(\|\cdot\|_{\infty}\)に関して可分でない.ただし,\[ \|f\|_{\infty}=\sup_{x\in\mathbb{R}}\mid f(x)\mid \]である.

 

まず任意の\(s\in\mathbb{R}\)に対し,\(f_s(x)=I_{(-\infty,\ s)}(x)\)と定めます.ただし,\(I_A(x)\)は\(A\subset\mathbb{R}\)の定義関数(特性関数)を表します.

ここから,可分でないことを背理法を用いて示します.すなわち,可分であると仮定します.

可分であるとは,可算な稠密部分集合が存在することだったので,それを\(\{x_n\}_{n=1}^{\infty}\)とおきます.

このとき,\(s\neq t\)なる実数\(s,t\)で,\[\| f_s-x_k\|_{\infty},\ \|f_t-x_k\|<\frac{1}{4}\]なる自然数\(k\)が存在するようなものがあります.

もしこのような\(s,t\)が存在しないならば,\(\mathbb{R}\)から\(\mathbb{N}\)への単写が作れることになり矛盾が生じるからです.

ところが,\(s\neq t\)ならば,\(\|f_s-f_t\|_{\infty}=1\)であるが,三角不等式から,\[\|f_s-f_t\|_{\infty}\leq \|f_s-x_k\|_{\infty}+\|f_t-x_k\|_{\infty}<\frac{1}{2}\]となり矛盾します.

よって,背理法により,可分でないことが示されました.

ということで,詰め合わせでした.以上で終わります.

間違い等ございましたらコメントかTwitterにて指摘をしてくださると幸いです.