数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

ひとくち数学「次元の話」

3次元は立体で2次元は平面で・・・なんて説明はここ最近だとよく耳にします.まぁそれこそ二次元という言葉も今では馴染みのある言葉になりました.

そんな直感的にはなんとなく理解している次元ですが,数学的にはどのように定義されるのでしょうか?ということで,今回も線形代数のお話です.

まず,次元を定義しておきましょう.

Definition

\((1)\) \(V\)を複素ベクトル空間とする.\(V\)のベクトルの集合\(\{x_i\}_{i\in I}\) (ただし添字集合\(\)は無限でもよい)が有限個の\(i\)に対して,\(\alpha_i\neq 0\)となるような複素数を係数として,\[\sum_{i\in I}\alpha_ix_i\]なる形式的無限和を 一次結合(線形結合)という. このとき,一次結合全体の空間\[\langle\{x_i\}_{i\in I}\rangle=\Bigl\{\sum_{i\in I}\alpha_ix_i\} \Bigr\}\]を\(\{x_i\}_{i\in I}\)が生成する部分空間(張る空間)という.

\((2)\)\[\sum_{i\in I}\alpha_ix_i=0\Rightarrow \forall i\in I,\ \alpha_i=0\]が成り立つ時,\(\{x_i\}_{i\in I}\)は一次独立または線形独立という.特に,\(L\subset V\)に対して,\(\{x\}_{x\in L}\)が一次独立となるとき,\(L\)は一次独立であるという.(だたし便宜上空集合は一次独立であるとする.)

\((3)\)\(\langle \{x_i\}_{i\in I}\rangle=V\)かつ一次独立であるとき,\(\{x_i\}_{i\in I}\)は\(V\)の基底であるという.

\((4)\)特に基底の元が有限個であるとき,\(V\)は有限次元であるという.またその基底の元の個数を\(V\)の次元といい,\(\dim V\)で表す.有限次元でないときは便宜上\(\dim V=\infty\)と表す.

 

ということで,これが次元の定義です.つまり基底の元の個数としたわけですね.ですが,この定義はきちんとされているのか問題があります.なぜなら

    ・そもそも基底なんてものは存在するのか?
    ・基底があったとしても,きちんと次元という値が1つに定まるのか?

という二つの問題があります.一つ目はそのままで,そもそも基底がなければこの定義は破綻します.なので必ず基底が取れるということをいう必要があります.二つ目は仮に基底が複数あったとして,基底の元の数が一致しなければ次元はひとつに定まらずこの定義は破綻してしまいます.

従って,今回はこれを頑張って示していこうってことになります.

まず基底の存在についてですね.

Theorem \(V\)を複素ベクトル空間とし,一次独立な\(V\)の部分空間\(U\)を含むような\(W\)によって\(V\)が生成されるとき,\[U\subset B\subset W\] を満たすような\(V\)の基底\(B\)が存在する.

Remark

\(U=\emptyset,\ W=V\)の場合でもよい.この時は\(V\)自身が基底であることを意味する.

proof

さて,証明ですが,Zorn補題を使います.今\[\mathcal{A}=\{B;\ U\subset B\subset V,\ かつBは一次独立\}\]とおきましょう.

この時,\(U\in\mathcal{A}\)であるから空でないです.

今,\(\mathcal{A}\)は集合の包含関係に関して半順序関係となるので,\(\mathcal{A}\)の全順序部分集合を\(\mathcal{B}\)とおきます.

このとき,\[B'=\bigcup_{B\in \mathcal{B}}B\]と定義すると,\(U\subset B'\subset V\)であるから,\(B'\)が一次独立であれば良いです.

ここで,\(B'\)の一次結合\(\sum\alpha_ix_i\)を考えると,各\(x_i\)は\(\mathcal{B}\)のある集合に属しますが,全順序部分集合なので,結局1つの集合にすべて属します.

従って,一次独立となり\(B'\)は上界であることがわかります.よって,Zorn補題より,極大元\(B\)が存在します.この\(B\)が基底であることを最後に示します.

取り方から一次独立であることは明らかなので,\(\langle B\rangle=V\)を示します.これは背理法によります.

すなわち,そうでないとすると,\(v\in V\setminus\langle B\rangle\)となる\(v\neq 0\)が存在します.これより,\(B\cup\{v\}\)は一次独立となりますが,これは極大元であることに矛盾します.

よって,生成される空間は\(V\)に一致して,基底であることがわかります. \(\Box\)

なお,\(W\)が有限の場合は明らかに極大元があるので,その場合はZorn補題は必要ないです.

さて、基底の存在がわかったところで,次の問題は基底の元の個数が一致するかどうかですね.ここからはすべて\(V\)の基底の元の個数は有限個としましょう.

Theorem \(V\)を複素ベクトル空間とし,\(n\)個のベクトルが\(V\)を生成するとき,\(V\)内で線形独立な元の個数は\(n\)以下である.

proof

\(n\)に関する帰納法によって示します.\(n=0\)のときは自明なので,\(n-1\)まで成立すると仮定しましょう.

すなわち,\(n-1\)個で生成されるベクトル空間\(V'\)で線形独立な元は\(n-1\)個以下であると仮定します.

今\(n\)のとき,\(V\)を生成するベクトルを\(\{x_i\}_{i=1}^n\)とし,\(\langle x_1,\cdots x_{n-1}\rangle=W\)としましょう.さて,\(n+1\)個のベクトル\(y_1,\cdots ,y_{n+1}\)が一次独立でないことを示しましょう.

とりあえず,\(x_1,\cdots x_n\)の一次結合で各\(y_j\)は表せるわけですが,これは結局ある\(y'_j\in W,\ \alpha_j\in \mathbb{C}\)があって,\[y_j=y'_j+\alpha_j x_n\]とかけることになります.

ここで帰納法の仮定により,\(y'_1,\cdots y'_{n+1}\)はすべて\(W\)の元なので,一次独立でないということになります.

もし,任意の\(j\)に対して,\(\alpha_j=0\)ならば主張が成り立つので,ある\(j\)があって,\(\alpha_j\neq0\)としましょう.

このとき,\[x_n=\alpha^{-1}_jy_j-\alpha^{-1}_jy'_j\]であり,\(i=1,\cdots n+1,\ i\neq j\)であるとすると,\[y_i-\alpha_i\alpha^{-1}_jy_j=y'_i\alpha_i\alpha^{-1}_jy'_j\]となります.

ということはまた右辺の方を\(w_i\)とでもおくと,\(W\)の元で\(n\)個ありますから一次独立でないです.

よって,これは\(y_1,\cdots y_{n+1}\)が一次独立でないことになります.(\(\{w_i\}\)が一次独立でない式を考え,式変形をするとわかります.)

故に,定理が成り立ちます. \(\Box\)

これの系として,次のことが成り立ちます.

corollary \(V\)を複素ベクトル空間とし,\(\{x_i\}_{i=1}^n,\ \{y_j\}_{j=1}^{m}\)を\(V\)の基底とするとき,\(n=m\)である.

proof

証明は簡単で,上の定理より,お互いに一次独立でかつ\(V\)を生成するので,\(n\leq m\)かつ\(m\leq n\)です.\(\Box\)

かくして,次元の定義が正当化されることになり,うまいこと次元が定義できました.次元というのも中々数学的に定義しようとすると手間ですねぇ

今回は線形代数の代数っぽいところについて書いてみました.以上で終わります.