複素解析覚書き2-積分定理とか
今回は複素線積分について適当に話します.
その前に正則関数の定義から行きましょう.
正則関数については次の命題が基本的です.
これに関しては証明はいいと思うので飛ばします.
さて次に複素積分の定義をするので,少しだけ準備です.
複素積分を次のように定義します.
基本的なこととして,\[\left| \int_C f(z)\ dz\right |\leq \int_C\mid f(z)\mid\mid dz\mid\]
が成り立ちます.さらに曲線に関して次を定義します.
上ではパラメータ表示の定義域を同じとしましたがそれはあまり本質的なことではないです.変数変換すればいいだけですからね.
ところで,ホモトープは同値関係です.これはまぁそんなに難しくないのでいいでしょう.
さて.ここまで定義したところで,Cauchyの積分定理についてのべましょう.
よく知られているCauchyの積分定理はホモトープという概念を導入することで上のように一般化できます.
が,あまりにもその証明には労力が必要なのでここに証明を書く事は大変なのでしません.この証明は概ね3,4段階くらいに領域を一般化しつつ証明します.
ところで,上ではホモトピーが\(C^1\)であると仮定していますが,実際は連続曲線に対しても複素積分はうまく定義が可能なので,この仮定は必要ないです.
さて,ここまで証明もなしにやっていると何かさみしいものがあるので,2つほど簡単な場合を証明しておきましょう.
まず次のことが成り立ちます.
これは所謂Cauchy-Goursatの定理です.この場合領域自体の性質に特に条件をおいていませんが,代わりに積分経路が制限されています.このようにCauchyの積分定理は積分経路や領域に制限をつけ少しずつ証明をしていくのです.
これを示す前に,ひとつ補題を上げておきます.
これは距離空間なので点列コンパクト性を使ったほうが良いかと思います.実際,各\(K_n\)からひとつずつ元をとり,数列\(\{z_n\}\)を作りますあとは単調減少性と点列コンパクト性を駆使すれば,空でないことはわかります.
一点集合となることに関しては,共通部分から2点をとり,その絶対値を考えると\(d(K_n)\)より小さくなるので,極限を考えればよいでしょう.
さて,これを踏まえCauchy-Goursatの定理を証明します.
proof
まず,\[I(T)=\int_{\partial T} f(z)\ dz\]とします.閉三角形\(T\)の頂点を\(a,b,c\)とするとき,各辺\(ab,bc,ca\)の中点を\(a_1,b_1,c_1\)とし,それぞれを結ぶ線分を取ります.
このとき元の\(T\)は4つの合同な三角形\(T_{1,1},T_{1,2},T_{1,3},T_{1,4}\)に分かれます.(シェルピンスキーガスケットみたいな感じ)
元の三角形を\(T_0\)とおき,\(T_1\)を上の三角形のどれか一つのうち,\(\mid I(T)\mid\leq 4\mid I(T_1)\mid\)となるものとして,今度は\(T_1\)に同じ操作を適用すると\(T_2\)が得られます.
これを繰り返すと,\(\{T_n\}\)という閉三角形の列が取れます.これはコンパクト集合列です.このとき,\(T\)の周の長さを\(L\)と置くと,\[d(K_n)\leq\frac{L}{4^n}\]が成り立ちます.
よって区間縮小法により,\(\exists a\in D;\ \bigcap_{n=0}^{\infty}T_n=\{a\}\)が成り立ちます.
一方で,\(f\)は\(D\)内で正則なので,\(a\)のある近傍上\(U_r(a)\)で,\[f(z)=f(a)+f'(a)(z-a)+\delta(z)(z-a)\]とかけます.ただし,任意の\(\varepsilon>0\)に対し,\(\mid \delta(z)\mid<\varepsilon\ \ \ z\in U_r(a)\)です.
今.\(d(K_n)\)は\(0\)に収束するので,\(n\)が十分大きければ,\(T_n\subset U_r(a)\)となります.従ってこのとき
\[\left|\int_{\partial T_n}f(z)dz\right |=\left |\int_{\partial T_n} f(a)+f'(a)(z-a)dz+\int_{\partial T_n} \delta(z)(z-a)dz\right | \]
ここで,絶対値の中身の第一項は計算すれば\(0\)となることがわかるので,
\[\left|\int_{\partial T_n}f(z)dz\right |\leq \varepsilon\frac{L^2}{4^n}\]が成り立つことがわかります.
また,\[\mid I (T)\mid \leq 4^n\mid I(T_n)\mid\]が取り方により成り立つので,\(I(T)=0\)でなければなりません.\(\Box\)
またこれを用いてもう少し扱いやすい形のものが示せます.その前に二つほど定義をしておきます.
ここで,基本的なこととして,\(f\)に原始関数\(F\)が存在するならば,\[\int_C f(z)\ dz=F(z(b))-F(z(a))\]が成り立ちます.
これを踏まえ次が成り立ちます.
proof
証明ですが,結局原始関数の存在が示せればよいので,それを示します.
\(z_0\)を一つ固定すると,任意の\(z\in D\)と\(z_0\)を結んだ線分は\(D\)に含まれます.
従って,関数\(F\)を次のように定義します:\[F(z)=\int_{\overline{zz_0}}f(z)dz\]ただし,\(\overline{zz_0}\)は\(z_o,z\)を結ぶ線分を表します.
今,任意の\(a\in D\)に対し,\(F'(a)=f(a)\)を示します.\(\Delta z\)を\(a+\Delta z\in D\)となるようにとります.
このとき,三点\(z_0,a,a+\Delta z\)がつくる閉三角形をTとする.このとき,Cauchy-Goursatの定理より
\[\int_{\partial T} f(z)dz=\int_{\overline{z_0a}-\overline{z_0(a+\Delta z)}-\overline{a(a+\Delta z)}}f(z) dz=0\]ですので,\[F(a+\Delta z)-F(a)=\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}f(z) dz\]が成り立ちます.
よって,\[\mid\frac{1}{\Delta z}(F(a+\Delta z)-F(a))-f(a)\mid =\left |\frac{1}{\Delta z}\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}f(z) dz-f(a)\right |\]となりますが,ここで,
\[f(a)=\frac{1}{\Delta z}\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}f(a) dz\]より,
\[\left |\frac{1}{\Delta z}\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}(f(z)-f(a)) dz\right |\leq \sup\{\mid f(z)-f(a)\mid ;\ \mid z-a\mid \leq\mid \Delta z\mid\}\to 0\ (as\ \Delta z\to 0)\]となり原始関数であることがわかります.\(\Box\)
という事で,特別な場合はこのように割と簡単に示せるのですが,それ以外だとまあまあ大変です.次回は暇だったら一致の定理とかについてやろうと思います.