数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

複素解析覚書き2-積分定理とか

今回は複素線積分について適当に話します.

その前に正則関数の定義から行きましょう.

Definition複素関数\(f\)が点\(z_0\)で正則であるとは,ある\(r>0\)が存在して,\(z_0\)の\(r\)近傍\(U_r(z_0)=\{z;\ \mid z-z_0\mid<r\}\)上微分可能であることをいう.また領域\(D\)で正則であるとは,\(f\)が\(D\)の任意の点で正則である事をいう.

 

正則関数については次の命題が基本的です.

proposition\(D\)を領域とし,\(D\)上の複素関数\(f\)を\(f(z)=u(x,y)+iv(x,y)\)とするとき,\(u,v\)が\(C^1\)級であって,\(D\)上\(u,v\)がCauchy-Riemann方程式を満たすならば,\(f\)は\(D\)上正則である.

 

これに関しては証明はいいと思うので飛ばします.

さて次に複素積分の定義をするので,少しだけ準備です.

Definition\(I=[a,b]\)に対し,複素平面上の曲線\(C\)のパラメータ表示を\(z(t)\)とするとき\(C\)が区分的に滑らか(Piecewiese Smooth)であるとは,\(z(t)\)は\(I\)上連続であり,区間のある分割\[a_0=a<a_1<\cdots <a_n=b\]が存在して,各\([a_k,a_{k+1}]\ (k=0,\cdots, n)\)で\(C^1\)級かつ,\(z(t)\neq 0\)であることを言う.特に,\(z(t)\)が閉曲線であるとは,\(z(a)=z(b)\)となることである.また,\(z(s)=z(t)\)なる\(s,t\in I\)が\(a,b\)以外存在しないとき,単純閉曲線(Jordan 曲線)であるという.

 

複素積分を次のように定義します.

Definition\(I=[a,b]\)とし,PS(piecewise smooth)曲線\(C\)のパラメータ表示を\(z(t)\)とし,複素関数\(f\)を\(C\)の近傍で連続とする.このとき\(C\)上の複素積分を\[\int_C f(z)\ dz=\int_{a}^b f(z(t))z'(t)dt=\sum_{k=1}^n\int_{a_k}^{a_{k+1}}f(z(t))z'(t)dt\]で定義する.また,\[\int_C f(z)\ \mid dz\mid =\int_{a}^b f(z(t))\mid z'(t)\mid\ dt\]を弧長に関する線積分という.

 

基本的なこととして,\[\left| \int_C f(z)\ dz\right |\leq \int_C\mid f(z)\mid\mid dz\mid\]

が成り立ちます.さらに曲線に関して次を定義します.

Definition\(D\)を領域とし,\(D\)内の曲線\(C_1,C_2\)のパラメータ表示を\(I=[a,b]\)に対し,それぞれ\(z_1(t),z_2(t)\)とする.このとき,\(C_1\)と\(C_2\)が\(D\)でホモトープであるとは,ある連続写像\(h\colon I\times [0,1]\to D\)が存在して\[h(t,0)=z_1(t),\ h(t,1)=z_2(t),h(a,s)=z_1(a)=z_2(a),h(b,s)=z_1(b)=z_2(b)\]が成り立つことである.これを\(C_1\sim C_2\)と表す.また,\(h\)をホモトピーという.さらに,\(D\)内の任意の連続閉曲線が定数曲線にホモトープのとき,\(D\)は単連結であるという.

 

上ではパラメータ表示の定義域を同じとしましたがそれはあまり本質的なことではないです.変数変換すればいいだけですからね.

ところで,ホモトープは同値関係です.これはまぁそんなに難しくないのでいいでしょう.

さて.ここまで定義したところで,Cauchyの積分定理についてのべましょう.

Theorem\(D\)を領域とする.\(f\)が\(D\)上正則であり,\(D\)内の2つのPS曲線\(C_1,C_2\)が\(C_1\sim C_2\)であり,ホモトピー\(h\)が\(C^1\)級ならば\[\int_{C_1}f(z)\ dz=\int_{C_2}f(z)dz\]が成り立つ.特に,\(D\)が単連結で,PS曲線\(C\)が閉曲線ならば,\[\int_C f(z)dz=0\]となる.

 

よく知られているCauchyの積分定理はホモトープという概念を導入することで上のように一般化できます.

が,あまりにもその証明には労力が必要なのでここに証明を書く事は大変なのでしません.この証明は概ね3,4段階くらいに領域を一般化しつつ証明します.

ところで,上ではホモトピーが\(C^1\)であると仮定していますが,実際は連続曲線に対しても複素積分はうまく定義が可能なので,この仮定は必要ないです.

さて,ここまで証明もなしにやっていると何かさみしいものがあるので,2つほど簡単な場合を証明しておきましょう.

 

まず次のことが成り立ちます.

 

Theorem\(D\)を領域とし,\(D\)が閉三角形\(T\)を含むとする.このとき,\(D\)上正則な関数\(f\)に対して,\[\int_{\partial T} f(z)dz=0\]となる.ただし,閉三角形であるとは,\(a,b,c\in D\)なる三点を結ぶ線分で囲まれる領域(境界を含む)をさし,\(\partial T\)は\(T\)の境界を表す.

 

これは所謂Cauchy-Goursatの定理です.この場合領域自体の性質に特に条件をおいていませんが,代わりに積分経路が制限されています.このようにCauchyの積分定理は積分経路や領域に制限をつけ少しずつ証明をしていくのです.

これを示す前に,ひとつ補題を上げておきます.

 

Lemma(Cantorの区間縮小法)\(\mathbb{C}\)内のコンパクト集合の列\(\{K_n\}\)が\(K_n\neq \emptyset,k_{n+1}\subset k_n\)ならば,\(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}^{\infty}K_n\neq\emptyset\)である.特に,\[d(K_n)=\sup\{\mid z_1-z_2\mid;\ z_1,z_2\in K_n\}\to 0\ (as\ n\to \infty)\]ならば\(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}^{\infty}K_n\)は一点集合である.

 

これは距離空間なので点列コンパクト性を使ったほうが良いかと思います.実際,各\(K_n\)からひとつずつ元をとり,数列\(\{z_n\}\)を作りますあとは単調減少性と点列コンパクト性を駆使すれば,空でないことはわかります.

一点集合となることに関しては,共通部分から2点をとり,その絶対値を考えると\(d(K_n)\)より小さくなるので,極限を考えればよいでしょう.

さて,これを踏まえCauchy-Goursatの定理を証明します.

proof

まず,\[I(T)=\int_{\partial T} f(z)\ dz\]とします.閉三角形\(T\)の頂点を\(a,b,c\)とするとき,各辺\(ab,bc,ca\)の中点を\(a_1,b_1,c_1\)とし,それぞれを結ぶ線分を取ります.

このとき元の\(T\)は4つの合同な三角形\(T_{1,1},T_{1,2},T_{1,3},T_{1,4}\)に分かれます.(シェルピンスキーガスケットみたいな感じ)

元の三角形を\(T_0\)とおき,\(T_1\)を上の三角形のどれか一つのうち,\(\mid I(T)\mid\leq 4\mid I(T_1)\mid\)となるものとして,今度は\(T_1\)に同じ操作を適用すると\(T_2\)が得られます.

これを繰り返すと,\(\{T_n\}\)という閉三角形の列が取れます.これはコンパクト集合列です.このとき,\(T\)の周の長さを\(L\)と置くと,\[d(K_n)\leq\frac{L}{4^n}\]が成り立ちます.

よって区間縮小法により,\(\exists a\in D;\ \bigcap_{n=0}^{\infty}T_n=\{a\}\)が成り立ちます.

一方で,\(f\)は\(D\)内で正則なので,\(a\)のある近傍上\(U_r(a)\)で,\[f(z)=f(a)+f'(a)(z-a)+\delta(z)(z-a)\]とかけます.ただし,任意の\(\varepsilon>0\)に対し,\(\mid \delta(z)\mid<\varepsilon\ \ \ z\in U_r(a)\)です.

今.\(d(K_n)\)は\(0\)に収束するので,\(n\)が十分大きければ,\(T_n\subset U_r(a)\)となります.従ってこのとき

\[\left|\int_{\partial T_n}f(z)dz\right |=\left |\int_{\partial T_n} f(a)+f'(a)(z-a)dz+\int_{\partial T_n} \delta(z)(z-a)dz\right | \]

ここで,絶対値の中身の第一項は計算すれば\(0\)となることがわかるので,

\[\left|\int_{\partial T_n}f(z)dz\right |\leq \varepsilon\frac{L^2}{4^n}\]が成り立つことがわかります.

また,\[\mid I (T)\mid \leq 4^n\mid I(T_n)\mid\]が取り方により成り立つので,\(I(T)=0\)でなければなりません.\(\Box\)

またこれを用いてもう少し扱いやすい形のものが示せます.その前に二つほど定義をしておきます.

Definition領域\(D\)が凸領域であるとは任意\(D\)の点\(z_1,\ z_2\)を結ぶ線分\[ z(t)=z_1(1-t)+tz_2\ t\in [0,1]\]が\(D\)内に含まれることである.+

 

Definition\(D\)を領域とし,\(D\)上の複素関数\(F\)が\(f\)の原始関数であるとは,\[F'(z)=f(z)\ z\in D\]が成り立つことである..

 

ここで,基本的なこととして,\(f\)に原始関数\(F\)が存在するならば,\[\int_C f(z)\ dz=F(z(b))-F(z(a))\]が成り立ちます.

これを踏まえ次が成り立ちます.

Theorem\(D\)を凸領域とし,\(f\)は\(D\)上正則とする.このとき任意のPS閉曲線\(C\)に対して,\[\int_C f(z)dz=0\]が成り立つ.

proof

証明ですが,結局原始関数の存在が示せればよいので,それを示します.

\(z_0\)を一つ固定すると,任意の\(z\in D\)と\(z_0\)を結んだ線分は\(D\)に含まれます.

従って,関数\(F\)を次のように定義します:\[F(z)=\int_{\overline{zz_0}}f(z)dz\]ただし,\(\overline{zz_0}\)は\(z_o,z\)を結ぶ線分を表します.

今,任意の\(a\in D\)に対し,\(F'(a)=f(a)\)を示します.\(\Delta z\)を\(a+\Delta z\in D\)となるようにとります.

このとき,三点\(z_0,a,a+\Delta z\)がつくる閉三角形をTとする.このとき,Cauchy-Goursatの定理より

\[\int_{\partial T} f(z)dz=\int_{\overline{z_0a}-\overline{z_0(a+\Delta z)}-\overline{a(a+\Delta z)}}f(z) dz=0\]ですので,\[F(a+\Delta z)-F(a)=\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}f(z) dz\]が成り立ちます.

よって,\[\mid\frac{1}{\Delta z}(F(a+\Delta z)-F(a))-f(a)\mid =\left |\frac{1}{\Delta z}\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}f(z) dz-f(a)\right |\]となりますが,ここで,

\[f(a)=\frac{1}{\Delta z}\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}f(a) dz\]より,

\[\left |\frac{1}{\Delta z}\int_{\overline{a(a+\Delta z)}}(f(z)-f(a)) dz\right |\leq \sup\{\mid f(z)-f(a)\mid ;\ \mid z-a\mid \leq\mid \Delta z\mid\}\to 0\ (as\ \Delta z\to 0)\]となり原始関数であることがわかります.\(\Box\)

という事で,特別な場合はこのように割と簡単に示せるのですが,それ以外だとまあまあ大変です.次回は暇だったら一致の定理とかについてやろうと思います.