数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

複素解析覚書き5-正則関数の性質その2~強い定理たち

前回は正則関数の基本的な定理を示しましたので、今回は複素解析における強い定理をやっていきましょう.まぁCauchyの積分定理が一番強いんですけどね.

まず,簡単なこととして次を示します.

Lemma \(D\)を領域として,定関数でない\(D\)上正則な関数\(f\)がある一点\(a\in D\)において,\(f(a)=0\)とする.このとき,ある自然数\(n\)が存在して,\(f^{(n-1)}(a)\neq 0,\ f^{(n)}(a)=0\)が成り立つ.さらに,\(a\)の近傍上の正則関数\(g\)が上存在して,\(f(a)=(z-a)^ng(z)\)かつ,\(g(a)\neq 0\)が成り立つ.

proof

前半は対偶により示します.すなわち,任意の自然数\(n\)に対して,\(a\)における\(n\)次導関数の値が0ならば定関数であることを示します.

さて,解析では(?)よく使うテクニックとして連結性を使った証明をします.

どのようにするかというと,\[O_1=\{a\in D;\ f^{(n)}(a)=0\ n\in\mathbb{N}\},\ O_2=D\setminus O_1\]と定義します.

当然目標は\(O_1=D\)なのですが,直接示すのは難しいので,\(O_1,\ O_2\)が共に開集合となることを示すことでその代わりとします.

連結性とは,定義にもよりますが,開かつ閉となる集合は全体か空集合のみとなることだからです.今\(D\)は領域だから連結開集合なのでこれが使えるわけです.

まず,\(O_2\)が開集合であることを示します.\(c\in O_2\)とすれば,当然ある自然数\(n_0\)が存在して,\(f^{(n_0)}(c)\neq 0\)となります.

今,\(f^{(n_0)}\)は正則,特に連続なので,ある\(c\)の近傍\(U\)が取れて,\(U\)上\(f^{(n_0)}(z)\neq 0\)なので\(O_2\)は開集合となります.

一方,\(c'\in O_1\)とすると,\(R>0\)を十分小にとって,\[f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}c_n(z-c')^n\ \ (\mid z-c'\mid<R)\]となりますが,こないだの話から \[c_n=\frac{f^{(n)}(c')}{n!}\]なので,\(B_R(c')\)上\(c_0\)を除いてすべて0です.

よって\(B_R(c')\)は\(O_1\)に含まれるので,\(O_1\)も開集合となり命題の対偶が示されました.より正確にはこれにより命題を満たす自然数が空でないことがわかったので,それの最小値\(k\)を整列性から取れば良いです.

後半の証明は簡単で,\(r>\)を十分小にとって,\(a\)の\(r\)上の\(f\)べき級数展開を考えると,

\[f(z)=\sum_{n=k}^{^\infty}c_n\ \ (z-a)^n\ (\mid z-a\mid<r,\ c_k\neq 0)\]が成り立ちます.

従って,\(g(z)=\sum_{n=k}^{\infty}c_n(z-a)^{n-k}\)とすれば証明が終わります.\(\Box\)

これを使って次を示します.

Theorem(一致の定理) \(D\)を領域として,\(f\)を\(D\)上正則とする.このとき,\(D_0=\{z\in D;\ f(z)=0\}\)が\(D\)で集積点を持つならば,\(f\)は\(D\)上恒等的に\(0\)である.

proof

証明はそれほど難しくありませんがこの定理は後々驚く程の恩恵を私達にもたらしてくれるので示しましょう.

\(a\in D_0\)を集積点としましょう.すなわち,ある\(a\)に一致しない数列\(\{a_k\}\subset D_0\)が存在して,\[\lim_{k\to\infty}a_k=a\]となります.

今\(f\)は特に連続なので,\(f(a)=f(\lim_{k\to\infty}a_k)=\lim_{k\to\infty}f(a_k)=0\)となります.ここからは背理法を用います.すなわち\(f\)が定関数でないと仮定しましょう.

背理法の仮定から上のLemmaを適用できて,ある自然数\(l\)と\(a\)のある近傍上正則な\(g\)が存在して

\[f(z)=(z-a)^lg(z)\]で,\(g(a)\neq 0\)です.ところが,\[f(a_k)=(a_k-a)^lg(a_k)=0\]なので,\(g(a_k)=0\)となり,これは\(g(a)=0\)となってしまいますので矛盾です.

従って,\(f\)は定関数であり,その値は仮定より\(0\)となります.\(\Box\)

でこれがなぜ一致の定理かというと,\(f\)をなんか適当な二つの正則関数の差だと思えば二つの正則関数が\(D\)上で一致していることを主張しているからです.

すなわち正則関数は局所的な部分が決まってしまうとそのまわりがすべて決まってしまうということでもあります.この性質があるため複素幾何なんかは硬い幾何なんだよと幾何の專門の方に教えてもらったことがあります.

まぁ私は幾何の専門ではないのでなるほどーぐらいに聞いていましたが.

さて,これを示したところで次はLioubilleの定理についてです.

Theorem(Liouville) \(\mathbb{C}\)上正則で,有界な関数は定数関数のみである.

proof

証明は\(f\)を仮定のような関数としましょう.このとき,原点の近傍において,\(f\)はべき級数展開が可能であり,その係数\(c_n\)は任意の\(R>0\)に対して,\[c_n=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_R(0)}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{n+1}}\ d\zeta\]と表せるのでした.

従って積分の三角不等式を用いれば,\[\mid c_n\mid \leq \frac{M}{R^n}\]の成立がわかります.

故に,\(R\to\infty\)とすれば,\(c_n=0\)の成立がわかり,\(f\)は恒等的に\(c_0\)であることがわかります.\(\Box\)

これの系として代数学の基本定理が示せます.

Theorem 複素係数多項式\[p(z)=a_nz^n+\cdots +a_1z+a_0\ \ (a_n\neq 0)\]は少なくとも一つ解を持つ.

proof

背理法により示します.すなわち,\(p(z)=0\)なる\(z\in\mathbb{C}\)は存在しないと仮定します.このとき,\[g(z)=\frac{1}{f(z)}\]とすると正則関数です. このとき,\(z\to\infty\)ならば,\(g(z)\to 0\)より,ある\(R>0\)が存在して,\[\mid g(z)\mid < 334\ \ (\mid z\mid\leq R)\]となるようにできます.そして,\(\{z;\ \mid z\mid \leq R\}\)はコンパクト集合なので,\(\mid g(z)\mid \)は最大値\(M\)をもち,\[\mid g(z)\mid \leq \max\{334,\ M\}\]となります.

故にLioubilleの定理から\(g\)は定関数,すなわち\(f\)は定関数となり矛盾.故に解を持つことになります.\(\Box\)

今回は複素解析の代表的な定理についてやってみました.ありがとうございました.余談ですが,別に\(334\)でなくても\(5000\)兆でもなんでもいいです.