数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

ひとくち数学「ヒルベルト空間のテンソル」

ちょっとだけ面白いテンソルの話です.

テンソルと聞くと私は代数の加群の話が真っ先に浮かんでくるのですが,皆さんはどうでしょうか?.

で、テンソルというと結局実態がよくわからないことが多いですが、今回は実態の分かるものがあるという話ができたらいいなぁって感じです.

先程からテンソルと何度も言っていますが,一応いろんな定義があるので私がいうテンソルを一応定義しておきましょう.

Definitionヒルベルト空間\(H_1,\ H_2\)に対し,\(H_1\times H_2\)上の元\((f,\ g)\)に対して,\[f\otimes g(u,v)=\langle f\ ,\ u\rangle_{H_1}\langle g\ ,\ v\rangle_{H_2}\]と定義する.このとき,\[H_1\hat{\bigotimes}H_2=\left\{\sum_{i=1}^nc_if_i\otimes g_i;\ f_i\in H_1,\ g_i\in H_2,\ c_i\in\mathbb{C}\right\}\]とするとこれはベクトル空間であって,\[\left\langle\sum_{i=1}^nc_i f_i\otimes g_i\ ,\ \sum_{j=1}^md_ju_j\otimes v_j\right\rangle=\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^mc_id_j\langle f_i\ ,\ u_j\rangle_{H_1}\langle g_i\ ,\ v_j\rangle_{H_2}\]とすると内積となる.この内積から定義されるノルムに関する完備化を\(H_1\bigotimes H_2\)と表し,\(H_1\)と\(H_2\)のテンソル積(Tensor Produnct)という.

 

このようにこの定義も完備化なので実態は結局のところあまりつかめないです.

しかし,このテンソル積の特徴として次のことがわかります:

Theorem\(\{e_i\},\ \{h_j\}\)を\(H_1,\ H_2\)の正規直交基底(完全正規直交系)とするとき,\(\{e_i\otimes h_j\}_{i,\ j}\)は\(H_1\bigotimes H_2\)の正規直交基底となる.

 

この性質があるので,テンソルそのものは掴めなくても同型であるものはつかむことができる空間があります.

今回は\(H_1=L^2(\mathbb{R}^n)\)と\(H_2=L^2(\mathbb{R}^m)\)として,テンソルを考えましょう.

まず,\(\{e_i(x)\},\ \{h_j(y)\}\)を\(H_1,\ H_2\)の正規直交基底とするとき,\(\{e_i(x)h_j(y)\}_{i,\ j}\)が\(L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)の正規直交基底となることを示します.

正規直交系となることはすぐわかるので,完全性を示しましょう.

完全性とはすなわち,\(\langle f,\ e_ih_j\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)}=0\)が任意の\(i,\ j\)で成り立つならば,\(f=0\)であることです.

まず\(\langle f,\ e_ih_j\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)}=0\)が任意の\(i,\ j\)について成り立っているので,

\[\langle f,\ e_ih_j\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)}=\left\langle\langle f(x,\ y)\ ,e_i\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n)}\ ,\ h_j\right\rangle_{L^2(\mathbb{R}^m)}=0 \]

より\(\{h_j\}\)の完全性から,ある\(\mathbb{R}^m\)上の零集合\(N_i\)が存在して,任意の\(y\in\mathbb{R}^m\setminus N_i\)に対し,\(\langle f(x,\ y)\ ,e_i\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n)}=0\)となります.

従って,\(N=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}N_i\)とすれば,任意の\(y\in\mathbb{R}^m\setminus N\)にと任意の\(i\in\mathbb{N}\)に対して,\(\langle f(x,\ y)\ ,e_i\rangle_{L^2(\mathbb{R}^n)}=0\)が成り立ちます.

これより,今度は\(\{e_i\}\)の完全性より,\(y\in\mathbb{R}^m\setminus N\)に対して,\(f(x,\ y)=0\ (a.e. x\in\mathbb{R}^n)\)となります.

故に,\[\int_{\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m}\mid f(x,\ y)\mid\ dxdy=\int_{\mathbb{R}^m\setminus N}\left(\int_{\mathbb{R}^n}\mid f(x,\ y)\mid\ dx\right)dy=0\]より,\(f(x,\ y)=0\ (a.e.(x,\ y)\in\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)となるので,正規直交基底であることが分かります.\(\Box\)

 

さらに内積を考えれば,\(L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)の内積と\(H_1\bigotimes H_2\)の内積は値として一致することがわかります.

したがって,\(e_ih_j\mapsto e_i\otimes h_j\)と対応させれば,ヒルベルト空間として同型であることがわかります.

なので実質的に\(L^2(\mathbb{R}^n\times\mathbb{R}^m)\)がテンソル積だと考えることができるので実態は割と容易にわかります.

なにより有用な結果としては正規直交基底同士の積が正規直交基底になるという事実ですね.

Hilbert-Schmidt作用素を調べるときに使ったりします.\(L^2(\mathbb{R}^n)\)上のHS作用素はすべて積分作用素でかけるので割と強いです.

といったところで私がテンソルについて知ってることはすべて話したので終わります.ありがとうございました.