数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

ちょっと真面目な数学:自己共役作用素の定義の仕方について?

 

今日のテーマは自己共役作用素をどう定義するか?的な話です.

 

なぜ自己共役でなければならないか?というのは様々な理由がありますが, 基本的に量子力学において物理量はヒルベルト空間上の自己共役作用素として表されるので, 物理的意味を持たすためには自己共役でなければ困るというのが一番の理由でしょうか?(そもそも自己共役でなければスペクトル定理が適用できない).

例えば, シュレディンガー作用素は基本的に\(-\Delta+V\)なる形で表されます. ここで, \(V\)は関数\(V(x)\)の掛け算作用素を表します. 過去の記事で

 

troy-sugaku-t.hatenablog.com

\(-\Delta\)の自己共役性においては話したと思いますが, 自己共役作用素と他の作用素の足し算が必ずしも自己共役作用素になるとは限りません. 自己共役作用素になる十分条件として有名なのは加藤-レリッヒの定理です:

Theorem \(A\)を自己共役作用素, \(B\)を対称作用素とし, \(D(A)\subset D(B)\)とする. このとき, ある\(0<a<1, b>0\)なる\(a, b\)が存在して, \[\|Bx\|\leq a\|Ax\|+b\|x\|\quad (x\in D(A))\]が成り立つとき, \(A+B\)も自己共役作用素である.

 

このような定理はあるものの, シュレディンガー作用素の自己共役性を保証するのは容易ではありません. また, シュレディンガー作用素だけでなく, 他の物理量を表す作用素が自己共役であるか?、あるいは自己共役な作用素に拡張できるか?というのは重要なテーマです.

今回は自己共役作用素を定義する方法について古典的ではありますが, 少し話せたらと思います. 具体的には

    1. 自己共役性と定義域の関係性
    3. Quadratic formの基本性質
    4. Representation Theoremとその応用例

などについて話せればと思っております.

今回はその準備としてヒルベルト空間上の線形作用素について簡単ではありますが,上の定理の言ってる意味がわかる程度に復習をしていきましょう.

なお, ヒルベルト空間や作用素の定義に関しましては,

 

 

 

troy-sugaku-t.hatenablog.com

 

にも書いてありますので, お手元に関数解析の本がなければ参照してください.

以下特に断りがない限り\(\mathcal{H}\)はヒルベルト空間を表し, \(A, B\)は\(\mathcal{H}\)上の稠密に定義された線形作用素とします.

まず作用素の拡張から定義しておきましょう.

Definition \(A, B\)に対し, \(A\)が\(B\)の拡張であるとは, \(D(B)\subset D(A)\)かつ \[Bx=Ax\quad (x\in D(B))\] であることをいい, \(B\subset A\)と表す.

 

この定義における記号は非常にわかりやすく, \(A\subset B\)かつ\(B\subset A\)ならば\(A=B\)が成り立ちます. 不等式の両側示して\(=\)を示すことと同じように, 作用素においてはこの両側の包含関係をいうことで\(=\)を示すことは多いです.

次に前閉作用素について定義します.

Definition 線形作用素\(A\)が前閉作用素(closable operator)であるとは, \(0\)に収束する任意の\(\{x_n\}\subset D(A)\)に対して, \(\{Ax_n\}\)も\(0\)に収束することをいう.

 

このとき重要なこととして, \(A\)の拡張を作ることができます. いま,

\[D(\overline{A})=\{x\in\mathcal{H};\ \lim_{n\to\infty}x_n=xなる\{x_n\}\subset D(A)が存在して, \lim_{n\to\infty}Ax_nが収束する.\}\] と定義し, \[\overline{A}x=\lim_{n\to\infty}Ax_n\]と定義します.

これはwell-defined で, 実際, \(x\in D(\overline{A})\)に対し, \(D(\overline{A})\)の条件を満たすような点列\(\{x_n\}, \{y_n\}\)をとったとき, \(x_n-y_n\to 0\quad (n\to\infty)\)なので,

\[\lim_{n\to\infty}A(x_n-y_n)=0\] となります. よって, well-difinedであり, その定義から容易にわかるように\(A\subset \overline{A}\)となることがわかります. この\(\overline{A}\)を\(A\)の閉包(closure)といって, 特に, \(A=\overline{A}\)のとき, \(A\)を閉作用素(closed operator)といいます.

作用素の定義にも色々とありますが, 個人的に一番理解のしやすい定義を採用しています. またこの定義の仕方からわかるように, \(A\)が閉作用素であることと, \(x_n\to x, Ax_n\to y\quad (n\to\infty)\)なる任意の\(\{x_n\}\subset D(A)\)に対して, \(x\in D(A), y=Ax\)となることと同値になります.

次に共役作用素を定義します.

Definition \(A\)に対し, \[D(A^*)=\{y\in \mathcal{H};\ \forall x\in D(A), \exists z\in\mathcal{H};\ \langle Ax, y\rangle=\langle x, z\rangle\}\] と定義する. このとき, \(A^*y=z\)と定めると, \(A^*\)は\(\mathcal{H}\)上の線形作用素となる. この\(A^*\)を\(A\)の共役作用素(adjoint operator)という. また, \(A\subset A^*\)のとき, \(A\)は対称(symmetrinc)であるという. 特に, \(A=A^*\)となるとき, \(A\)は自己共役(self-adjoint)であるという.

 

なお上の定義がwell-definedであるかは, \(D(A)\)が稠密なので, \(D(A)^{\perp}=\{0\}\)が成り立つことから保証されます. (一般に直交補空間が零元のみであることと, その空間が稠密であることは同値です.)

共役作用素については様々性質がありますが, 基本的なものをあげておきましょう.

Proposition
    \((2) A\)が前閉作用素であることと\(D(A^*)\)が稠密になることは同値である.
    \((3)\ A\)が前閉作用素であるとする. このとき, \((A^*)^*=\overline{A}, (\overline{A})^*=A^*\)が成り立つ.

 

証明は省略しますが, これによって, \(\overline{A}\)の共役作用素は\(A^*\)あることがわかります.従って, なんらかの物理量を表す作用素が自己共役でないとしても, その閉包が自己共役となれば, 閉包をその物理量を表す作用素として扱うことで意味を持たすことができます. 従って, 最低限として作用素の閉包が自己共役であればなんとかなるので, そのような作用素を本質的自己共役作用素といいます.

この本質自己共役作用素については次の基本的な定理があります.

Theoremヒルベルト空間\(H\)の対称閉作用素\(A\)に対して, 以下は同値である:
    \((2)\ \ker(A^*\pm i)=\{0\}\).
    \((3)\ R(A\pm i)\)は\(H\)で稠密である.

 

上の定理からわかるように対称作用素は上の条件さえ成り立てば本質自己共役作用素です. したがって, 対称作用素が本質自己共役になるか?という問いは基本的だといえます.

そこを元に考えていくのがフォン・ノイマンの理論となります.

と色々真面目に語ったのですが, 次回はフォン・ノイマンの定義に触れる前に定義域をどう定義するか?というのが割と重要というのを述べておきます.

ではまた.