数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

ちょっと真面目な数学:境界条件と自己共役性

troy-sugaku-t.hatenablog.com

 

今回は自己共役性と定義域の関係性です.  

 

例えば

\[A_0=-\frac{d^2}{d x^2},\ D(A_0)=\{u\in W^{2,\ 2}(0,\ 1);\ u^{(k)}(0)=u^{(k)}(1)=0,\ k=0,\ 1\}\]

などと定めると自己共役にならないことがわかります.それは次の事実によります: \[A=-\frac{d^2}{dx^2}, \quad D(A)=H^2(0, 1)\]とすると, \(A_0^*=A\)

つまり共役をとったことで元の作用素より大きくなってしまうわけですね.

ですが, たとえば, ディリクレの境界条件

\[ A_D=-\frac{d^2}{dx^2}\quad D(A_D)=\{u\in H^2(0, 1);\ u(0)=u(1)=0\}\] などとすると自己共役になります. まぁ, ディリクレの境界条件で自己共役じゃなくても困るわけですが, こうしてみると自己共役になるようにするのは結構絶妙な定義域を持ってくる必要があります.

従って, 自己共役に拡張するために定義域をガチャガチャ弄くるのは現実的でないというのはわかります. よって, その辺をうまく避けつつ自己共役拡張ができないかを考えようとなっていくわけです.(しかし, 避けたことでの弊害もあったりして・・・)

さて, その辺をまず話す前に, 上の作用素たちの事実が本当に成り立つのかを見ておきましょう.

\[u, v\in D(A), W(x)=\overline{u'(x)}v(x)-\overline{u(x)}v'(x)\] とすると \[ \langle A u, v\rangle=W(1)-W(0)+\langle u, A v\rangle\]

となります. いわゆるロンスキアンというやつです. これは実際に部分積分を2回やればわかります. さて, \(H(0, 1)\)の元はいくらでもありますが, たとえば, \(u(x)=x^2, v(x)=1\)とすれば, \(W(1)-W(0)\neq 0\)であることがわかります. 従って, \(A\)はそもそも対称作用素ですらないということがわかります.

また, \(u\in D(A_0^*)\)とするとき,任意の\(v\in D(A_0)\)に対して, 共役作用素の定義より, \(\langle A_0v, u\rangle=\langle v, A_0^*u\rangle\)です.

これはSobolev空間の定義から, \(-u''(x)=A_0^*u\)を意味するので, \(u\in H(0, 1)=D(A)\)より, \(A_0^*\subset A\)

逆に, \(u\in D(A_0), v\in D(A)\)のとき, \(W(1)-W(0)=0\)より, \(\langle A_0u, v\rangle=\langle u, Av\rangle\)となる. これは共役作用素の定義より, \(v\in D(A_0^*), A\subset A_0^*\)を意味します.

ゆえに\(A=A_0^*\)となって, \(A_0\)は自己共役でないことがわかります. つまりここからわかることは, \(A_0\)は定義域の条件が厳しすぎるし, \(A\)は逆にゆるすぎるということです.

では\(A_D\)はどうなのでしょうか?というとこれはばっちり自己共役になります. 対称作用素なのは明らかなので, \(A_D\subset A_D^*\)です. さて, \(u\in D(A_D^*)\)に対し, \[\forall v\in D(A_D), \langle A_Dv, u\rangle=\langle v, A_D^*u\rangle\]となりますが, 最右辺を部分積分して直接計算すればロンスキアンが出てくるはずなので, \(W(1)-W(0)=0\)でなければなりません. 今, \(v\)は任意なので, たとえば\[v_1(x)=x^3-2x^2+x,\ v_2(x)=x^3-x^2\]をそれぞれいれて計算すれば, \(u(0)=u(1)=0\)がわかります. 従って, \(u\in D(A_D)\)となり, \(A_D=A_D^*\)が示されます.

このように定義域が非常に重要なポイントになるということはわかったと思いますが, 上で述べたように絶妙な定義域を持ってくることは結構難しいです.

そういった困難を回避しつつ対称作用素をうまく自己共役作用素に拡張するひとつの方法として, フォン・ノイマンの理論を次回はお話したいと思います.

ではまた.