複素解析覚書き1-複素数の定義とか
最近,複素解析もまた忘れてきてるなーと思ったので使いそうなものを覚書き.内容は面白いものでもないかもですが
ということでまずは複素数の定義から.
ここでは複素数をある程度数学的にまともな定義を与えたい気がするので,そうします.
定義は様々ありますが,ここでは実係数多項式環を使って定義を行いたいと思います.
実係数多項式環\(\mathbb{R}[x]\)は次のように定義されます:\[\mathbb{R}[x]=\{f\ ;\ f(x)=a_o+a_1x+a_2+\cdots =\sum_{i\geq 0}a_ix^i,\ a_i\in\mathbb{R}\ ただし,有限個を除き,a_i=0\}\]ただし,形式上\(x^0=1\)とします.
さて一般論として,\(\mathbb{R}\)は体なので,\(\mathbb{R}[x]\)はユークリッド整域です.従って,既約元から生成されるイデアルは極大イデアルです.
従って,\(x^2+1\)は\(\mathbb{R}[x]\)の既約元なので,剰余環\[\mathbb{R}[x]/(x^2+1)\mathbb{R}[x]\]は体となるので,これを\(\mathbb{C}\)と定義します.
このとき,任意の多項式\(f\)は\(\mathbb{R}[x]\)がユークリッド整域であることから,ある多項式\(q\)と実数\(a,b\)が存在して,\[f(x)=(x^2+1)q(x)+a+bx\]とかけます.
よって,\(\mathbb{C}=\{\overline{a+bx}\ ;\ a,b\in\mathbb{R}\}\)となります.
また\(\mathbb{R}\)から\(\mathbb{C}\)への標準的な単射(\(a\mapsto \overline{a}\))により,\(\mathbb{R}\subset\mathbb{C}\)とみなせます.
従って,単に\(a\)などと書く事にすると,\(\overline{a+bx}=a+b\overline{x}\)であり,\({\overline{x^2}}=-1\)より,\(x\)を\(i\)と書く事にすれば,
\[z\in\mathbb{C}\Leftrightarrow z=a+bi\ (a,\ b\in\mathbb{R})\] となり,複素数体の構成を行うことができました.
最後に解析には欠かせない複素数\(z=a+bi\)の絶対値は,共役複素数\(\overline{z}=a-bi\)として,\[\mid z\mid =\sqrt{z\overline{z}}=\sqrt{a^2+b^2}\]と定義します.これは当然のことながら,
- \( (1)\ \mid z\mid \geq 0\)特に,\(\mid z\mid =0\Leftrightarrow z=0\)
- \((2)\ \alpha\in\mathbb{C},\ \mid \alpha z\mid=\mid\alpha\mid\mid z\mid\)
- \((3)\ z_1,\ z_2\in\mathbb{C},\ \mid z_1+z_2\mid\leq \mid z_1\mid+\mid z_2\mid\)
を満たします.これで概ね必要なものは揃ったので以上で複素数の定義を終わります.
他にも複素数の構成はいくつか方法がありますがこれが一番早いでしょう.馴染みはないかもしれませんが.
一番わかりやすいのはハミルトンによる\(\mathbb{R}^2\)を使った定義でしょう.あれは直感的にもわかりやすいので,構成するのは楽ですが,体であることをチェックするのが面倒です.
次に複素微分について.まず定義から.
一応注意しておくと,ここでの極限の定義は,\[\lim_{z\to z_0}f(z)=\alpha\Leftrightarrow\forall\varepsilon>0,\ \exists \delta>0;\ 0<\mid z-z_0\mid <\delta\Rightarrow \mid f(z)-\alpha\mid <\varepsilon\]です.
さて,複素微分について重要なのは次の関係です.
proof
以下,\[u_x=\frac{\partial u}{\partial x},\ u_y=\frac{\partial u}{\partial y}\]などと書きます.(\(v\)も同じく)
証明ですが,複素微分可能ならば明らかに全微分可能かつ,Cauchy-Riemann方程式を満たします.従って,逆のみ示します.
\[u(x_0+h,y_0+k)=u(x_0,y_0)+u_x(x_0,y_0)h+u_y(x_0,y_0)k+\varepsilon_1(h,k)\]ただし,\[\ \lim_{(h,k)\to (0,0)}\frac{\varepsilon_1(h,k)}{\sqrt{h^2+k^2}}\]
これは\(v\)についても同様に,
\[v(x_0+h,y_0+k)=v(x_0,y_0)+v_x(x_0,y_0)h+v_y(x_0,y_0)k+\varepsilon_2(h,k)\]
ただし,\[\ \lim_{(h,k)\to (0,0)}\frac{\varepsilon_2(h,k)}{\sqrt{h^2+k^2}}\]
となります.さて,\(\Delta z=h+ik\)とおくと,
\[f(z_0+\Delta z)-f(z_0)=u(x_0+h)-u(x_0,y_0)+i(v(x_0+h,y_0+k)-v(x_0,y_0)\]
で先ほどの式を適用すると,
\[=u_x(x_0,y_0)h+u_y(x_0,y_0)k+\varepsilon_1+i(v_x(x_0,y_0)h+v_y(x_0,y_0)k+\varepsilon_2)\]
となります.ここで,Cauchy-Riemann 方程式を適用すると,
\[\frac{f(z_0+\Delta z)-f(z_0)}{\Delta z}=u_x(x_0,y_0)+iv_x(x_0,y_0)+\frac{\varepsilon_1}{\Delta z}+\frac{\varepsilon_2}{\Delta z}\]
従って,\(\varepsilon_1,\ \varepsilon_2\)の性質から結論を得ます. \(\Box\)
今回はこれで終わり.次回はCauchyの積分定理周辺の定理とかについてまとめようと思います.