数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

掛け算作用素の話をしたかった(準備その2)

書いたはいいけど存在忘れそう.

今回は線形作用素について必要最低限述べて行こうと思います.

線形作用素という文字だけ見るとなんか難しそうかもしれませんが別にたいしたことないです.

ここではヒルベルト空間に限っておきますが,別にBanach空間でも変わりません.

Definition\(H,\ K\)をヒルベルト空間とし,\(D\)を\(H\)の部分空間とする.

\(T\colon H\to K\)が\(H\)上の線形作用素(linear operator)であるとは,\[\forall u,v\in D,\forall \alpha,\beta\in\mathbb{C},T(\alpha u+\beta v)=\alpha Tu+\beta Tv\]が成り立つことである.また\(D\)を\(T\)の定義域(domain)といい,\(D=D(T)\)で表す.

ここで注意しておかなければならないのは,作用素の定義には定義域も含まれるということです.なにを当たり前なことを私も最初は思いましたが,これは意外と大事で間違いを起こしやすいので気をつけましょう.

つまり、二つの作用素が同じということは定義域とその各点での値がともに一致する必要があるということですね.

ところで,線形作用素の連続性と有界性や作用素ノルムについては少し触れる必要がありますね.

以下,\(H,K\)は特に断らない限りヒルベルト空間とします.

Definition線形作用素\(T\colon H\to K\)が連続であるとは,\(D(T)\)内の収束列で,その極限\(x\)が\(D(T)\)に属すような点列\(\{x_n\}\)に対して,\[\|Tx_n-Tx\|_K\to 0\ (as\ n\to \infty)\]が成り立つことである.

次に有界性についてです.

Definition線形作用素\(T\colon H\to K\)が有界であるとは,\[\exists M.0;\ \forall u\in D(T),\ \|Tu\|_K\leq M\|x\|_H\]が成り立つことである.

線形作用素では上の二つは結局のところ同値であることはコメントしておきます.(証明はわりと簡単です.)

また、有限次元の空間上の線形作用素はすべて有界作用素なので、非有界作用素は無限次元空間で考えなければ意味がありません.

ここでDensely Definedについて話しておきましょう.

Definition作用素\(T\colon H\to K\)の定義域\(D(T)\)が\(H\)で稠密であるとき,\(T\)は稠密に定義された(densely defined) 作用素という.

さて、densely definedな有界作用素は次のようなことが成り立ちます.

propsition作用素\(T\colon H\to K\)をdensely definedな有界線形作用素とする.このとき,有界線形作用素\(\overline{T}\colon H\to K\)がただ一つ存在して,\(\forall u\in D(T), Tu=\overline{T}u\)かつ,\(D(\overline{T})=H\)が成り立つ.

証明は任意の\(u\in H\)に対して,\(u_n\to u\ (as\ n\to\infty)\)なるものをとって,\(\overline{T}u=\lim_{n\to\infty}Tu_n\)とすれば良いです.

この定理により,densely definedな有界作用素では結局のところ定義域は空間そのものだと思って良いことになります.

このように\(T\colon H\to K\)が有界線形作用素で,\(D(T)=H\)となるもの全体を\(\mathbb{B}(H,K)\)と書く事にします.

ここでこの\(\mathbb{B}(H,K)\)は自然な和とスカラー倍について\(\mathbb{C}\)ベクトル空間となり,また次のノルムについて完備であることがわかります.

propsition\(T\in\mathbb{B}(H,K)\)に対して,\[\|T\|=\inf\{M\ ;\ \|Tu\|_K\leq M\|u\|_H\}\]と定義すると,\(\mathbb{B}(H,K)\)上のノルムとなり,このノルムに関して完備である.

また、このノルムは\[\|T\|=\sup_{u\neq 0}\frac{\|Tu\|}{\|u\|}\]と表すこともできます.

さらに定義から明らかに,\(\|Tu\|\leq\|T\|\|u\|_H\)が成り立ちます.

ここでようやっと掛け算作用素が定義できます.

Definition\(|F(x)|\)がa.e有限な\(\mathbb{R}^N\)上のボレル可測関数\(F\)とする.このとき,\(L(\mathbb{R}^N)\)から自身への線形作用素\(M_F\)を\[\forall f\in L^2(\mathbb{R}^N),(M_Ff)(x)=F(x)f(x)\ a.e.x\]と定義する.ただし,\(F\)が\(\exists M>0;\ \sup|F(x)|\leq M\ a.e\)ならば,\(D(M_F)=L^2(\mathbb{R}^N)\),そうでないならば\(D(M_F)=\{f\ ;\|Ff\|_L^2<\infty\}\)とする.

\(\exists M>0;\ \sup|F(x)|\leq M\ a.e\)が成り立つような\(M\)を本質的な上限といって,その\(\inf\)を本質的な上限といって,\({\rm ess}.\sup|f(x)|=\|f\|_{\infty}\)と表します.

また本質的上限が有限値のとき,その関数は本質的に有界であると言います.

今簡単な計算から,\(\|M_Ff\|_L^2\leq \|F\|_{\infty}\|f\|_L^2\)なので,本質的に有界ならば,\(M_Ff\)もまた\(L^2\)に入ります.

従って,関数\(F\)が本質的に有界ならば,掛け算作用素は\(D(M_F)=L^2\)であるような有界線形作用素です.

では本質的に有界でない場合はどうなるのか?というのは次回お話するとしましょう.

次回は掛け算作用素の性質についてです.