複素解析覚書き3-Cauchyの積分定理の補足とか
前回はCauchyの積分定理の特別なバージョンについては証明しました.
今回は正則関数の複素積分をより広い範囲でできるようにすることから始めましょう.
前回凸領域上の正則関数は原始関数を持つことを証明しました.今回はこれを使い連続曲線(PSとは限らない)上の積分がうまく作れることを話します.
凸領域\(D\)上の曲線\(C\colon z(t)\ t\in[a,\ b]\)に対して,正則関数\(f\)の複素積分を原始関数\(F\)を用いて,\[\int_{C}f(z)\ dz=F(z(b))-F(z(a))\]で定義します.
この定義は原始関数の取り方によらないのは明らかなので,この定義に問題はなく,PS曲線ならば本来の複素積分と一致します.
従って,領域が凸ならうまくいきます.しかもこれの良いところは曲線の滑らかさを仮定しなくても良いことです.これの考えが一般の領域でもうまく使えればPS曲線だけに限らずとも複素積分をすることができます.
なのでこの考え方を一般の領域に適用できるように頑張って行きましょう.
まず次の補題を示します
proof
\(d=\inf\{\mid z-z'\mid;\ z\in C,\ z'\in\partial D\}\)として,\(0<r<d\)となるように\(r\)を任意に取ります.
このとき,\(z(t)\)は閉区間\(I\)上連続なので一様連続です.従って,次のようなことが成り立つような\(\delta>0\)が存在します\(\colon\)
\[\forall t,t\in I,\ \mid t-t'\mid<\delta\Rightarrow \mid z(t)-z'(t)\mid<r\]
従って,分割を\(\max\{\mid t_i-t_{i-1}\mid ;\ 1\leq i\leq n\}<\delta\)となるようにとれば(例えば\(N\)を充分大きくとって等分する)凸領域\[D_i=\{z;\ \mid z(t_i)-z\mid<r\}\]は(☆)を満たします.\(\Box\)
この補題により,正則関数の一般領域での複素積分を次のように定義します.\(\colon\)
\[\int_Cf(z)\ dz=\sum_{i=1}^n(F_i(z(t_i))-F(z(t_{i-1})))\]
ただし,\(F_i\)は補題でとった凸領域\(D_i\)上における原始関数です.この定義は(☆)を満たす分割や原始関数の取り方によりません.勿論PS曲線ある場合元の定義と一致します.
従って,正則関数の連続曲線上での複素積分が定義され,前回のホモトープによるCauchyの積分定理におけるホモトピーの\(C^1\)級という仮定は必要がありません.
さてここまでわかったところで,次はCauchyの積分公式についてです.
proof
証明は簡単です.まず,\(0<\varepsilon<R-\mid z-a\mid\)となるように\(\varepsilon\)を任意にとります.
\(D\setminus \{a\}\)上\(B_{\varepsilon}(a)\sim B_R(a)\)で\(\displaystyle\frac{f(z)}{\zeta-z}\)は正則なので,Cauchyの積分定理より,\[\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_R(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta\]が成り立ちます
さらに,\(M=\sup\{\mid f(z)-f(\zeta)\mid;\ z,\zeta\in B_{\varepsilon}(a)\}\)としておくと,\[\left|f(z)-\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta\right|=\left|\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{f(z)-f(\zeta)}{\zeta-z}\ d\zeta\right|\leq \frac{M}{2\pi}\int_{\partial B_{\varepsilon}(a)}\frac{1}{\mid \zeta-z\mid }\ \mid d\zeta\mid = M\]
となって,\(\varepsilon\to+0\)とすれば,\(M\to 0\)より,結論を得ます.\(\Box\)
このCauchyの積分公式の恩恵は凄まじく,ここから正則関数が\(C^{\infty}\)級であること,べき級数展開が可能であることなどを導くことができます.次回はそれについてまとめます.
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