数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

ひとくち数学「等周不等式とFourier級数」

 

Fourier級数の数学的な応用例をひとつ.

problem\(D\subset\mathbb{R}^2\)を有界領域とし,曲線\(C\)を\(D\)の境界で\(C\)のパラメータ表示\(c(s)=(x(s),\ y(s))\)が\(C^1級\)かつ\(c'(s)\neq 0\)を満たす単純閉曲線(つまり始点と終点以外交わりがない)とする.このとき,曲線\(C\)の長さを\(L\),領域\(D\)の面積を\(A\),すなわち\[A=\frac{1}{2}\int_{C}-ydx+xdy\]とおくとき,\(L^2\geq 4\pi A\)が成り立つ.また等号が成立するとき,\(D\)は円である.

 

これは等周不等式といって,元々の発端は大昔に,決まった長さの紐で図形を作るとき,面積が一番大きくなる図形はなにか?という問題からです.まぁ答えは円ということですね.

なにやら幾何的な証明もあるようですが,ここではFourier級数という暴力を振るうことで解いてしまおうという話です.

で問題では面倒なので面積を初めから上のように置きましたが,要はグリーンの定理で重積分を線積分に変換してるのでそうなってるということで特に深い意味はありません.

証明の前に曲線\(C\)のパラメータは弧長パラメータ,つまり,\(s\in [0,\ L]\)で\(((x'(s))^2+(y'(s))^2=1\)としてよいことは注意しておきましょう.

またFourier級数にも多少定義にゆれがあるので,ここでは周期\(2\pi\)な関数\(f\)に対して,\[a_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos nx\ dx,b_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin nx\ dx\]

としておきます.(一般に周期が\(2\pi\)でなくとも適当な変数変換により周期関数のFourier係数を求めることはできます).これにより,\(f\)のFourier級数は\[f(x)\sim \frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}(a_n\cos n\pi x+b_n\sin n\pi x)\]となります.

また周期\(2\pi\)の関数\(f\)が二乗可積分ならばparsevalの等式\[\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\mid f(x)\mid\ dx=\frac{\mid a_0\mid ^2}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}(\mid a_n\mid ^2+\mid b_n\mid ^2)\]が成り立ちます.

これらに注意して等周不等式を示します.

さて,まず単純閉曲線なので,各\(x(s),y(s)\)は\[x(0)=x(L),\ y(0)=y(L)\]を満たします.これは周期\(L\)の周期関数なのでFourier級数展開が可能です.

よって\[x(s)=\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\left(a_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)+b_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]

\[y(s)=\frac{c_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\left(c_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)+d_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]

のように展開されます.ここで\(a_n,c_n\)はそれぞれFourier余弦係数で\(b_n,\ d_n\)はFourier正弦係数です.

Fourier級数の一般論から\(C^1\)級ならば真の意味で等号が成り立つことに注意しましょう.

さて,パラメータの関数\(x(s),\ y(s)\)の微分のFourier級数は等号かどうかわかりませんが

\[x'(s)\sim\frac{2\pi}{L}\sum_{n=1}^{\infty}n\left(b_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)-a_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]

と\[y'(s)\sim\frac{2\pi}{L}\sum_{n=1}^{\infty}n\left(d_n\cos\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)-c_n\sin\left(\frac{2\pi n}{L}s\right)\right)\]

と項別微分をしたようになります.これとParsevalの等式により,

\[L=\int_0^L\ ds=\int_{0}^L(x'(s))^2+(y'(s))^2\ ds\ \ \ \underset{=}{\small parseval}\ \ \frac{L}{2}\left(\frac{2\pi}{L}\right)^2\sum_{n=1}^{\infty}n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)\]

より,\[L^2=2\pi^2\sum_{n=1}^{\infty}n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)\]となります.

一方で\(A\)の方を計算すると\[A=\frac{1}{2}\int_0^L-y(s)x'(s)+x(s)y'(s)\ ds=\pi\sum_{n=1}^{\infty}n(a_nd_n-b_nc_n)\]となることがわかります.

あとは簡単で実際に\(L^2-4\pi A\)を計算します.

\[L^2-4\pi A=2\pi^2\sum_{n=1}^{\infty}(n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)-2n(a_nd_n-b_nc_n))\]

ここで中身に注目すると中身は\[n^2(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)-n(a_nd_n-b_nc_n)=(n^2-n)(a_n^2+b_n^2+c_n^2+d_n^2)+n((a_n-d_n)^2+(b_n+c_n)^2)\]

となるので,中身が\(0\)以上となり,等周不等式\(L^2\geq 4\pi A\)の成立がわかります.またこれが等号であるとき上の式から

\[a_1=d_1,\ b_1=c_1,\ a_n=b_n=c_n=d_n=0\ (n\geq 2)\]

となるので,\[\left(x(s)-\frac{a_0}{2}\right)^2+\left(y(s)-\frac{c_0}{2}\right)^2=a_1^2+c_1^2\]となって円であることがわかります.

以上がFourier級数を使った証明となりますが,fourier級数は他にも色んな応用があるので調べてみると面白いと思います.

数学以外でも活躍の多いFourier級数・Fourier変換ですが,単純に数学でも応用がたくさんあるのでFourier解析もやってみると面白いかもしれません.