数学メモ帳

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ひとくち数学:表現行列の話

表現行列

 

Definition\(V,\ W\)を有限次元複素ベクトル空間とし,\(T\colon V\to W\)を線形写像,\(\{v_1,\ \cdots v_n\},\ \{w_1,\ \cdots w_m\}\)を\(V,\ W\)の基底とする.このとき,\(n\times m\)行列\(A\)で\[(T(v_1)\ T(v_2)\cdots T(v_n))=(w_1\ \cdots w_m)A\]を満たす行列を基底\(\{v_1,\ \cdots v_n\}\)と\( \{w_1,\ \cdots w_m\}\)に関する\(T\)の表現行列という.

唐突に定義から始まりましたが今日は線形代数の話です.

線形代数の問題で,「基底~及び基底~についての\(T\)の表現行列を求めよ」的な問題をやった覚えがあります.

しかし,当時あまり真面目でなかった私にとって表現行列って結局何のかわからず,解法だけ覚えてよくわかっていなかったという一番良くないことをしてました.

定義がかなり形式的に書かれているので,頭の悪い私にとっては当時理解できなかった記憶があります.

まぁ、私の頭悪い自慢はいいのですが,最近久しぶりに線形代数の教科書をみたときにこのような問題があったので,昔よりほんの少しだけ賢くなった私が表現行列のお話をしたいと思います.

さて,結論から言ってしまうと線形写像\(T\)が\(V\)から\(W\)への最短ルートなら,表現行列というのはある意味遠回りをして\(V\)から\(W\)に行くような第2のルートをつなぐ橋です.

まず,任意に\(v\in V\)をとります.このとき,\(V\)の基底があるので,ある複素数\(a_1\cdots a_n\)が一意的に存在して,\[v=\sum_{i=1}^na_iv_i\]とかけます.

同様に,\(T(v)\)も\(W\)の基底を用いて,\[T(v)=\sum_{j=1}^mb_jw_j\]と表すことができます.

さて,\(v\)が数ベクトルならかなり話は早いですが,一般にはそうではありませんので,このままでは話が進みません.

なので,数ベクトルじゃないのならしてしまえばいいということになるので,つぎのような写像を考えます:

\[\forall v\in V,\ \phi(v)={}^t\!(a_1,\cdots a_n)\]と定義します.(\(t\)転置行列を表します.ようは縦ベクトルってことですね)

このベクトルに対する係数は一意なのでこの定義はwell-definedになります.

さて,このように定義すると実は同型写像になります.つまり,\(\mathbb{C}^n\)の話に落とし込むことに成功したわけです.

やはり同様にして,\[\forall w\in W,\ \psi(w)={}^t\!(b_1,\cdots b_m)\]と定義すると同型写像になります.

ここまでくれば話は簡単で,\(a_1\)から\(a_n\)と\(b_1\)から\(b_m\)の間になんか関係があればいいなぁという感じです.

さて,実はまだ\(T\)で写してないベクトルがあります.それは\(V\)の基底です.こいつらを今度は写したいと思います.

そうすると,各\(T(v_i)\)はやはり,\(W\)の元ですから,\[T(v_i)=\sum_{j=1}^mc^i_jw_j\]と表すことができます.

さらに,\(T\)は線形写像なので,上のように表されている\(v\)は\[T(v)=T(\sum^n_{i=1}a_iv_i)=\sum^n_{i=1}a_if(v_i)\]となるので,さっきのと合わせれば

\[T(v)=\sum_{i=1}^na_i\Bigl(\sum_{j=1}^mc_j^iw_j\Bigr)=\sum_{j=1}^m\Bigl(\sum_{i=1}^na_ic_j^i\Bigr)w_j\]

と表すことができます.さて,ここで思い出して欲しいのは,係数は一意だったことです.これにより,

\[\left( \begin{array}{ccc} b_1 \\ \vdots \\ b_m \end{array} \right)=\left( \begin{array}{ccc} \sum_{i=1}^na_ic^i_1\\ \vdots\\ \sum_{i=1}^na_ic^i_m \end{array} \right)\]

となるので,これは行列の計算の定義から,

\[\left( \begin{array}{ccc} c^1_1\cdots c^n_1 \\ \vdots\\ c^1_m\cdots c^n_m \end{array} \right)\left( \begin{array}{ccc} a_1\\ \vdots\\ a_n \end{array} \right)=\left( \begin{array}{ccc} b_1 \\ \vdots \\ b_m \end{array} \right)\]

ということで、実はここで現れる行列を\(A\)と表すとしたようなルートの途中にあります.

\[\begin{CD} V @>T>> W \\ @VV{\mathop\phi}V @AAA{\mathop\psi}^{-1} \\ \mathbb{C}^n @>A>> \mathbb{C}^m \end{CD}\]

つまり上の図のように遠回りに\(W\)に写す際の橋になるのがこの行列だったわけですね.

従って,\(T\)は間接的に行列で表されることになります.さてこのように作った行列は上の表現行列の定義を満たします.

ちなみにですが,表現行列だったら上の図の話が成り立つので,結局このようにとったものが表現行列というわけですね.

つまり表現行列はこの橋の役割をしていたわけで、しかも\(\phi,\ \psi\)は同型だったので,結局のところ線形写像を調べるにはこの表現行列を調べる方が手っ取り早いというわけです.

ということで,今回は懐かしの線形代数の話でした.正直間違いがないか心配です.それではまた.