数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

関数解析を雑に復習する2

§2 正射影定理

まずは今後何かと便利な正射影定理を示していこうと思います.

その前にいくつか基本的な位相の概念を導入しましょう.

Definition2.1\(X\)をノルムベクトル空間とし,\(D\subset X\)に対して,\[\overline{D}=\{x\in X;\ \exists\{x_n\}\subset D;\ \lim_{n\to\infty}x_n=x\}\]を\(D\)の閉包(closure)という.特に,\(D=\overline{D}\)なるものを閉集合(closed set)という.

また,\(M\)が\(X\)の部分空間で閉集合となるとき,\(M\)は\(X\)の閉部分空間(closed subspace)であるという.

 

--Remark--

\((1)\ D\subset \overline{D}\)

\((2)\ D\)が閉集合\(\Leftrightarrow\)\(D\)の任意の収束列\(\{x_n\}\)に対し,\(\lim_{n\to \infty}x_n\in D\)

--End of Remark--

またコンパクト性についても先に定義しておきましょう.

Definition2.2\(X\)をノルムベクトル空間とし,\(K\subset X\)とする.\(K\)の任意の点列\(\{x_n\}\)が\(K\)内に収束する部分列を持つとき,\(K\)はコンパクト(compact)であるという.また,\(\overline{L}\)がコンパクトとなるとき,\(L\)は相対コンパクト(Relatively Compact)であるという.

 

解析では上のようにコンパクト性を定義することが多いです.(まあどうせノルム空間しか扱わないしよくね的なノリ)

これらに関して基本的な性質をまとめておきましょう.

Proposition2.3\(X\)をノルムベクトル空間とし,\(M\)を\(X\)の閉部分空間とする.
    \((1)\ X\)が完備ならば,\(M\)も\(X\)のノルムに関して完備である.
    \((2)\ X\)がコンパクトならば,\(M\)も\(X\)のノルムに関してコンパクトである.

 

--Remark--

無限次元ベクトル空間では有界閉集合であってもコンパクトであるとは限らない.それについては次の記事を参照.

 

--End of Remark--

これはさすがに証明は容易と言っていいレベルなので飛ばして先に進みましょう.

さて,ここからは内積空間において重要な閉部分空間についてです.

Definition2.4\(H\)を内積空間とし,\(M\)を部分空間とする.このとき,\[M^{\perp}=\{x\in H;\ \forall y\in M,\ \langle x\ ,\ y\rangle=0\} \]を\(M\)の直交補空間(orthogonal complement)という.

 

ここからは直交補空間の基本的な性質をまとめましょう.

proposition2.5\(H\)を内積空間とし,\(M\)を部分空間とする.
    \((1)\ M^{\perp}\)は常に閉部分空間である
    \((2)\ M\subset N\)なる部分空間に対し,\(N^{\perp}\subset M^{\perp}\)である.
    \((3)\ \Bigl(\overline{M}\Bigr)^{\perp}=M^{\perp}\)

 

proof

\((1)\)についてまず示しましょう.任意の収束列\(\{x_n\}\)をとり,収束先を\(x\)とします.

このとき,内積の連続性から,\(y\in M\)に対して,\[\langle x\ ,\ y\rangle=\lim_{n\to \infty}\langle x_n\ ,\ y\rangle=0\]となるので,\(x\in M^{\perp}\)となります.

\((2)\)は\(u\in M\)ならば\(u\in N\)ですから,\(v\in N^{\perp}\)とすれば,\(\langle u\ ,\ v\rangle=0\)となるのでわかります.

\((3)\)は\((2)\)より,\(\Bigl(\overline{M}\Bigr)^{\perp}\subset M^{\perp}\)はすぐにわかります.

逆の包含関係を示します.\(x\in M^{\perp}\)と\(y\in \overline{M}\)を任意に取りましょう.

閉包の定義より,\(\lim_{n\to \infty}y_n=y\)なる\(\{y_n\}\subset M\)が存在します.従って,内積の連続性により,\[\langle x\ ,\ y\rangle=\lim_{n\to\infty}\langle x\ ,\ y_n\rangle=0\]より\(x\in \Bigl(\overline{M}\Bigr)^{\perp}\)となります.よって,\((3)\)も示されました.\(\Box\)

さて,基本的な性質を示したところで本題に入るために集合と点の距離を定義しましょう.

Definition2.6\(X\)をノルムベクトル空間とし,\(M\subset X\)とする.このとき,\(x\in X\)に対し,\[d(x,\ M)=\inf_{y\in M}\|x-y\|\]を点\(x\)と集合Mの距離という.

 

これに関して次のことが成り立ちます.

Theorem2.7(正射影定理)\(H\)をHilbert空間として,\(M\)を閉部分空間とする.このとき,任意の\(u\in H\)に対して,\[u=u_1+u_2\]なる\(u_1\in M,\ u_2\in M^{\perp}\)がただ一つ存在する.

 

--Remark--

上の定理の\(x_M\)を\(x\)の正射影という.

--End of Remark--

proof

証明はそこそこ長いですが,一つ一つはそこまで難しくはありません.まず,次を示します:

\[\forall x\in H,\ \exists! x_M\in M;\ \|x-x_M\|=d(x,\ M)\ \ \ (\star)\]

今以下\(x\)を固定して,\(d=d(x,\ M)\)とおきましょう.さて,\(\inf\)の定義により

\[\forall \varepsilon>0;\ \exists y\in M;\ d+\varepsilon>\|x-y\|\]が成り立ちます.

従って特に\(\varepsilon=1/n\ (n\in\mathbb{N})\)とすれば,\[\exists y_n\in M;\|x-y_n\|-d<\frac{1}{n}\]となることがわかります.

これより,\(\lim_{n\to\infty}\|x-y_n\|=d\)となります.今\(\{y_n\}\)がCauchy列となることを示しましょう.

今\(H\)はHilbert空間なので,中線定理を使うことができます.従って,\[\|y_n-y_m\|^2=\|(y_n-x)-(y_m-x)\|^2=2\|y_n-x\|^2+2\|y_m-x\|^2-4\left\|\frac{y_n+y_m}{2}-x\right\|\]

さて,\(M\)が部分空間となるので\((y_n+y_m)/2\in M\)であり,また\(\forall y\in M,\ \|x-y\|\geq d\)であることから,

\[\leq 2\|y_n-x\|^2+2\|y_m-x\|^2-4d^2\to 4d^2-4d^2=0\]となることがわかります.従って,\(\{y_n\}\)はCauchy列となります.よって完備性より,\(\{y_n\}\)の収束先\(x_M\)が存在します.

\(M\)が閉であるから\(x_M\in M\)であって,ノルムの連続性から,\(\|x-x_M\|=\lim_{n\to\infty}\|x-y_n\|=d\)を得ます.

また\(d=\|x-y_M\|\)なる\(y_M\)がほかにあったとすると,\[\|x_M-y_M\|^2\leq 2\|x_M-x\|^2+2\|x-y_M\|^2-4d^2=4d^2-4d^2=0\]より\(x_M=y_M\)となります.

さて,\((\star)\)のような\(x_M\)が取れるので,そこで,\(x_1=x_M,\ x_2=x-x_M\)と定義するとこれが求めるものとなります.

そのためには\(x_2\in M^{\perp}\)を示せばいいわけですが,\(z\in M,\ t\in\mathbb{R}\)を任意に取りましょう.

\(\|x_2\|=d\)と,\(x_1+tz\in M\)に注意すれば,\[d^2\leq\|u-u_1-tz\|^2=\|u_2-tz\|^2=d^2-2\Re(\langle u_2\ ,\ z\rangle)t+t^2\|z\|^2\]となるので,判別式より\(\Re(\langle u_2\ ,\ z\rangle)=0\)です.

あとは,\(z\)を\(iz\)に置き換えれば虚部も\(0\)になることが同様にしてわかるので,\(\langle x_2\ ,\ z\rangle=0\)であることがわかり,これで証明が終わります.\(\Box\)

最後に正射影定理からすぐに従う命題をいくつか扱って終わりにしましょう.

propsition2.8\(H\)をHilbert空間とし,\(M\)を部分空間とする.
    \((1)\ (M^{\perp})^{\perp}=\overline{M}\)
    \((2)\ \overline{M}=H\Leftrightarrow M^{\perp}=\{0\}\)

 

proof

\((1)\)をまず示しましょう.proposition2.5\((3)\)より,\(\overline{M}\subset (M^{\perp})^{\perp}\)となることはわかるのでその逆の包含関係を示せば十分です.

今,\(x\in(M^{\perp})^{\perp}\)とすると,\(\overline{M}\)が閉部分空間であることから,正射影定理を適用して,\[x=x_1+x_2\]なる\(x_1\in\overline{M},\ x_2\in M^{\perp}\)があります.

このとき,\(x-x_1=x_2\)で,\(x-x_1\in (M^{\perp})^{\perp},\ x_2\in M^{\perp}\)であって,\((M^{\perp})^{\perp}\cap M^{\perp}=\{0\}\)より,\(x=x_1\)となるので,\(x\in \overline{M}\)となります.

従って,\((1)\)の証明はこれで終わります.次に\((2)\)を示します.

\(\Leftarrow )\)はproposition2.5\((3)\)及び\((1)\)より直ちにわかります.

\(\Rightarrow )\)を示しましょう.\(x\in M^{\perp}\)を任意に取ると,proposition2.5\((3)\)と仮定から\[\langle x\ ,\ x\rangle=\|x\|^2=0\]より,\(x=0\)となるので結論を得ます. \(\Box\)

次回以降は超重要な空間の\(L^p\)空間について話していこうと思います.(おそらく3回くらいは最低でもやる気がします.この辺の空間を調べるのが結構しんどいですがこれが終われば楽しい楽しい一般論がまってます.)

今回はこれで終わります.間違い等ございましたらご指摘願います.