関数解析を雑に復習する1
§0 はじめに
関数解析のざっくりとした復習を兼ねて暇なときにできたらいいな(かなわぬ願い)
関数解析って結局何をやってるのさ?という話だけまずざっくりと、というか私の個人的な考えを話しておきます.よく巷では"無限次元の線形代数"と言われることが多い関数解析ですが実際線形写像がメインテーマではあります.
それはなぜかというと,微分積分ってどっちも線形性があるというのがあります.解析の主役とも言っていいこの二つが線形性を持ってるのだからそのへんの関数空間上の線形写像を調べたくなるというのは割と自然だと思います.
つまり,其の辺の線形性をもつ奴らをもっと一般的に見て微分方程式とか積分方程式とかそのへんが解けたらうまあじでは?というのがモチベーションになると思います.(ガバガバ)
で実際やってみると,え,これ線形代数でなんか見たことあるってなるので無限次元の線形代数という一言につながるわけです.勿論線形代数と違うところもいっぱいありますけどね.
つまり関数解析の舞台はノルムベクトル空間(大体BanachもしくはHilbelt空間)で主役は線形写像ということです.なので流れとしては舞台及び道具を用意するのが前半で主役を性質の良い順から調べていくという感じのよくあるパターンです.
まぁとりあえずそのへんを頭に入れながら少しずつやっていきましょう.おそらく話のしやすさ的にHilbert空間を中心に話すことになりますが,一般のBanach空間で成り立つ事実はなるべく一般の形で述べようと思います.
いきなりですが,Banach空間までの定義は過去の記事に書いてあるので適時参照してもらえると助かります.また無限次元のBanach空間の有名な例として\(\ell^p\)があるのでそのへんも一緒に見てくれたら幸いです.
§1 Hilbert空間の基礎事項
まずは基本的な話からしていきましょう.以下,単にベクトル空間といったときは複素係数を意味します.
さて,内積にはどことなくノルムに似た性質を持っているのですが,実は内積空間は\(\|x\|=\langle x\ ,\ x\rangle^{\frac{1}{2}}\)と置くことでノルム空間にすることができます.
そのためにひとつだけ補題を用意します.
proof
証明はそれほど難しくないです.まず,\(\alpha\in\mathbb{C},\ x,\ y\in X\)を任意にとります.このとき,\[0\leq\|\alpha x+y\|^2=\mid\alpha\mid^2\|x\|^2+2\Re(\alpha\langle x\ ,\ y\rangle)+\|y\|^2\](ただし,\(\Re\)は実部を表す.)
となります.元の不等式の左辺が\(0\)の場合は明らかのなので,そうでないとするとき\[\alpha=\frac{\overline{\langle x\ ,\ y\rangle}}{\mid \langle x\ ,\ y\rangle\mid}t\ \ (t\in\mathbb{R})\]とすれば先ほどの式より,
\[\|x\|^2t^2+2\mid \langle x\ ,\ y\rangle\mid+\| y\|^2\geq 0\]となります.よって判別式により結論を得ます. \(\Box\)
これによって,\(\|\cdot\|\)がノルムとなることがわかります.三角不等式以外はわかるので三角不等式を示しましょう.
\(\|x+y\|^2=\langle x+y\ ,\ x+y\rangle=\|x\|^2+\|y\|^2+2\Re(\langle x\ ,\ y\rangle)\leq\|x\|^2+\|y\|^2+2\mid\langle x\ ,\ y\rangle\mid\leq(\|x\|+\|y\|)^2\)
従ってノルムであることがわかります.また,シュワルツの不等式から,内積の連続性を示すことができます.
すなわち,\(\{x_n\}\)を\(\|x_n-x\|\to 0\ (as\ n\to\infty)\)とするとき,任意の\(y\in H\)に対して,\[\mid\langle x_n-x\ ,\ y\rangle\mid\leq \|x_n-x\|\|y\|\to 0\ (as\ n\to\infty)\]がわかります.(これは第二成分についても同様)
さてノルムであることがわかったことによってHilbert空間を定義することができます.
上の定義からHilbert空間はBanach空間の一種であることはわかると思いますが,このHilbert空間は非常に綺麗に話がまとまる空間なので非常に重要です.
簡単な例を示しておきましょう
(1)は明らかですし,(2)も過去に完備性はやっているのでチェックはそう難しくないと思います.内積にちゃんとなっていることだけチェックすればよいので暇だったらやってみてください.
さて,Hilbert空間の簡単な例は上げましたが,Banach空間だとしてもHilbert空間でないものが存在します.
それではどんなときにBanach空間はHilbert空間になるのでしょうか?それを示すのが次の定理です.
いわゆる中線定理というやつです.これが成立することがHilbert空間になる必要十分条件になります.
proof
まず\(X\)がHilbert空間であるとします.
このとき,\[\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=\|x\|^2+\|y\|^2+2\Re(\langle x\ ,\ y\rangle)+\|x\|^2+\|y\|^2-2\Re(\langle x\ ,\ y\rangle)=2(\|x\|^2+\|y\|^2)\]となり中線定理を満たします.
逆に中線定理が成り立っていると仮定します.このとき\[\langle x\ ,\ y\rangle=\frac{1}{4}(|x+y\|^2-\|x-y\|^2)+\frac{i}{4}(\|x+iy\|^2-\|x-iy\|^2)\]と定義するとこれが内積となります.もちろん\(i\)は虚数単位つまり,\(i^2=-1\)を満たします.
\(x=y\)の時は明らかに\(\|x\|\)に一致するので内積の定義の(3)はよいでしょう.
また(2)についても後ろの2項のノルムの中の\(i\)をくくり出すことでわかります.
従って第一成分に関する線形性を示せれば証明が終わります.さてまず,\(\langle x\ ,\ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle\)を考えましょう.
\[ \langle x,\ \ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^3i^k(\|x+i^kz\|^2+\|y+i^kz\|^2)\]
となります.本当は\(\sum\)の形で書きたくなかったのですがうまく表示ができませんでした(力不足)
そこは適時脳内補完してもらうとして,中線定理から次のことがわかります.
\[\|x+z\|^2+\|y+z\|^2=\frac{1}{2}(\|x+y+2z\|^2+\|x-y\|^2),\ \|x-z\|^2+\|y-z\|^2=\frac{1}{2}(\|x+y-2z\|^2+\|x-y\|^2)\]
従って,上の\(\sum\)の\(k=0,2\)のときを合わせると,\(1/8(\|x+y+2z\|^2-\|x+y-2z\|^2)\)となることがわかります.
同様に残った項を中線定理で分解してからたし合わせると,\(i/8(\|x+y+2iz\|^2-\|x+y-2iz\|^2)\)となるのでこれと合わせて,
\[\langle x,\ \ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle=\frac{1}{2}\langle x+y\ ,\ 2z\rangle\]を得ます.さてここで,\(y=0\)とすると,\[\langle x\ ,\ z\rangle=\frac{1}{2}\langle x\ ,\ 2z\rangle\]となりますが,さらにここで,\(x\)を\(x+y\)に書き換えれば
\[\langle x+y\ ,\ z\rangle=\frac{1}{2}\langle x+y\ ,\ 2z\rangle=\langle x,\ \ z\rangle+\langle y\ ,\ z\rangle\]となります.従って,あとは係数が前に出せれば証明が終わるわけですが,上の等式を用いれば有理数までは前に出せることがわかります.
また実数に関しては有理数の稠密性とノルムの連続性により前に出すことができることがわかります.
従って,あとは複素数が前に出せれば証明が終わるのですが,複素数は\(a+ib\)という形をしているので\(i\)さえ前に出せることが分かればよさそうです.
実際計算してみると,\[\langle ix\ ,\ y\rangle=\frac{1}{4}(\|ix+y\|-\|ix-y\|^2)+\frac{i}{4}(\|ix+iy\|^2-\|ix-iy\|^2)\]
なので,\[\|ix+y\|-\|ix-y\|^2=-(\|x+iy\|^2+\|x-iy\|^2),\|ix+iy\|^2-\|ix-iy\|^2=\|x+y\|^2+\|x-y\|^2\]に注意すれば
\[\langle ix\ ,\ y\rangle=i\langle x\ ,\ y\rangle\]であることがわかります.よって内積であることが示されました.\(\Box\)
この中線定理によってHilbert空間になるかどうかをチェックすることができます.
\(\ell^p\)において,\(p=3\)の時を考えましょう.念のためノルムは\(x=\{x_n\}\in\ell^3\)に対して,\[\|x\|_{\ell^1}=\sum_{n=1}^{\infty}\mid x_n\mid\]です.
ここで,\(x=(1,\ -1,\ 0,\ \cdots),\ y=(-1,\ 1,\ 0,\ \cdots)\)とします.つまり第3項目からはすべて\(0\)となるような数列二つについて中線定理を考えましょう.
このとき,\(\|x\|_{\ell^1}^2=\|y\|_{\ell^1}^2=2,\ \|x+y\|_{\ell^1}^2=0,\ \|x-y\|_{\ell^1}^2=16\)となるので中線定理は成り立ちません.
従って,\(\ell^1\)はBanach空間ではありますが,Hilbert空間にはなりません.一般に\(p=2\)の時しかHilbert空間にならないことが知られています.(上と同じように証明できます.)
ところで,Banach空間だけども,Hilbert空間にならない例は分かりましたが,内積空間ではあるが,Hilbert空間とならないような空間はあるのでしょうか?
次はその例について少し考えましょう.
--余談--
この例について話す前に,完備性について少し話しておくと,実はこの空間は\(\sup\)ノルムに関しては完備になります.
ですが,\(\sup\)ノルムには良くないことがあって,近似がうまくできないことです.近似は解析ではよくある手法で,一旦元の関数をよりよい性質の関数列で近似しておいてから元に戻すということをします.
完備であるということは逆に言えば\(\sup\)ノルムでは連続関数よりもゆるい条件の関数は連続関数では近似できないということになってしまいます.
従っていろんな関数を扱う上で\(\sup\)ノルムは都合が悪いのです.こういったところに上のノルム, \(L^2\)ノルムというのですが,これを扱うモチベーションがあるのだと思います.
もちろん,\(C(I)\)では考えている場所が狭すぎて完備とならないわけですが,その穴を補ったのが\(L^2\)空間ということになります.
--閑話休題--
まず,内積となることについて考えましょう.内積の定義の\((1),\ (2)\)は良いと思うので,\((3)\)のみ示しましょう.
非負性はよいので,\(\|u\|=0\)と仮定しましょう.このとき,\(u(x)\neq 0\)なる点があるなら,被積分関数が連続なとき,積分には強単調性があるので,\(\|u\|>0\)となって矛盾します.
(あるいはより一般的な話から連続関数が\(u=0\ a.e\)であるならば\(u\)は真に\(0\)という議論をしても良いと思います.)
従って,\(u=0\)であることがわかります.ゆえに内積となります.
次に完備でないことを示します.\(n\in\mathbb{N}\)に対して,\[f_n(x)=\begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} 0\ \ (0\leq x<\frac{1}{2})\\ \sqrt{n}(x-\frac{1}{2}) (\frac{1}{2}\leq x<\frac{1}{2}+\frac{1}{\sqrt{n}})\\ 1\ \ (\frac{1}{2}+\frac{1}{\sqrt{n}}<x\leq 1) \end{array} \right. \end{equation}\]
とおけば,これは連続関数となります.また,\(n\geq m\)とするとき,\[\|f_n-f_m\|^2\leq\frac{2}{3}\frac{1}{\sqrt{n}}+\frac{1}{3\sqrt{m}}\to 0\ (as\ n,\ m\to\infty)\]
となるのでCauchy列となることがわかります.一方で,\[f(x)= \begin{equation} \left \{ \begin{array}{l} 0 (0\leq x\leq\frac{1}{2}) \\ 1 (\frac{1}{2}<x\leq 1) \end{array} \right. \end{equation}\]
に各点収束します.ここで,もし\(f_n\)がある\(I\)上の連続関数\(g\)に\(\|\cdot\|\)に関して収束すると仮定しましょう.
このとき,\(\{f_n\}\)の部分列でほとんどいたるところ\(g\)に各点収束するような部分列\(\{f_{n(k)}\}\)が存在します.
このような部分列の存在は\(L^p\)空間の時に議論することにして話を進めると,元々\(\{f_n\}\)は\(f\)に各点収束してることから,\(f=g\ (a.e.)\)となります.
今,\(g\)の連続性により\[\exists\delta>0;\ \forall x\in [\frac{1}{2}-\delta,\ \frac{1}{2}+\delta],\ \mid g(x)-g(\frac{1}{2})\mid<\frac{1}{2}\]が成り立ちます.
今,\([1/2-\delta,\ 1/2]\)のLebesgue測度は\(0\)でないので,この閉区間内に\(f(x_0)=g(x_0)\)となる\(x_0\)が存在します.
同様に,\((1/2,\ \delta+1/2]\)のLebesgue測度も\(0\)でないのでこの区間内に\(f(x_1)=g(x_1)\)なる\(x_1\)が存在します.
従って,\[1=\mid f(x_0)-f(x_1)\mid \leq \mid f(x_0)-g(\frac{1}{2})\mid +\mid f(x_1)-g(\frac{1}{2})\mid <1\]となり矛盾が生じます.(このあほくさ不等式狂おしいほど好きです)故に\(\{f_n\}\)は\(\|\cdot\|\)に関して連続関数に収束しないことがわかります.
これによって\(C(I)\)内に収束しないCauchy列の存在がわかったので,完備でないことが示されました.\(\Box\)
今回はこれで終わります.もし議論に誤り等ございましたら御手数ですがご指摘願います.