数学メモ帳

なんかとりあえず数学する

掛け算作用素の話をしたかった その3

前回は掛け算作用素を定義しました.

Review\(|F(x)|\)がa.e有限な\(\mathbb{R}^N\)上のボレル可測関数\(F\)とする.このとき,\(L(\mathbb{R}^N)\)から自身への線形作用素\(M_F\)を\[\forall f\in L^2(\mathbb{R}^N),(M_Ff)(x)=F(x)f(x)\ a.e.x\]と定義する.ただし,\(F\)が\(\exists M>0;\ \sup|F(x)|\leq M\ a.e\)ならば,\(D(M_F)=L^2(\mathbb{R}^N)\),そうでないならば\(D(M_F)=\{f\ ;\|Ff\|_L^2<\infty\}\)とする.

そしてこの掛け算作用素の関数\(F\)が本質的に有界であるときは,\(M_F\in\mathbb{B}(L^2(\mathbb{R^N}),L^2(\mathbb{R^N}))\)となることをみました.

従って,今回は\(F\)が本質的に有界でない場合にどのような性質があるかについて述べます.

今回は測度論を割と使うので,まぁその辺の議論が好きかそうでもないかでだいぶ面白さは変わってくるとは思います.

では早速ですが、やっていきましょう.

propsition\(F\)が本質的に有界でないとき,次が成り立つ:
    \((1)\ D(M_F)\neq L^2(\mathbb{R}^N)\).
    \((2)\ M_F\)はdensely definedな線形作用素.

Proof

証明ですが,(1)がほとんど全てです.これが結構長いのでまぁ頑張りましょう.

要するに\(D(M_F)\)にはない関数が見つかれば良いわけですが,現実にはそれを構成しなければならないので、まず任意の自然数\(n\)に対して,

\[S_n=\{x\in\mathbb{R}^N\ ; n\leq\mid F(x)\mid < n+1\}\]と定義します.

これは異なる二つの自然数\(i,j\)に対して,\(S_i\neq S_j\)です.

さて,今\(F\)がa.e有限であることから, \[\mu(\cap_{n\in\mathbb{N}}S_n^c)=0\]となります.

実際\(S_n^c=\Omega(\mid F\mid<n)\cup\Omega(\mid F\mid\geq n+1)\)であるから,

\[\cap_{n\in\mathbb{N}}S_n^c=\Omega(\mid F\mid =\infty)\]

となり,a.e有限から,上の式がでます.

さて,ここから,\(\mu(\cup_{h\in\mathbb{N}}S_n)=\sum_{n=1}^{\infty}\mu(S_n)>0\) となります.

よって、今\(F\)が本質的に有界でないので、\(\mu(S_n)>0\)なる自然数\(n\)は無限個存在します.(ただし、無限大に発散する場合も含む)

なぜならば、有限個しか存在しないと仮定すると,その自然数の最大値\(M\)をとれば,\(M\)が\(F\)の本質的上界になってしまうからです.

よってこのような自然数の列を\(\{n(k)\}_{k\in\mathbb{N}}\)としておきます.

さて、上の測度はまだ発散する場合があるので、ここで有限値に収まるように工夫をします.

\(\mathbb{R}^N\)はσ-有限である,すなわち

\[\forall m\in\mathbb{N},0<\mu(K_m)<\infty,\bigcup_{m\in\mathbb{N}}K_m=\mathbb{R}^N\]となる\(\{K_m\}\)が存在します.

今,\[\mu(S_{n(k)})=\mu(\bigcup_{m\in\mathbb{N}}K_m\cap S_{n(k)})\]であるので、任意の\(k\)に対して,\(\mu(S_{n(k)}\cap K_{m(k)})>0\)なる自然数\(m(k)\)が存在します.

ここで,関数\(g\)を次のように定義します:

\[\begin{equation} g(x)= \left \{ \begin{array}{l} \Bigl(n(k)\sqrt{\mu(S_{n(k)}\cap K_{m(k)})}\Bigr)^{-1}\  (\forall k,\ x\in S_{n(k)}\cap K_{m(k)}) \\ 0 ({\rm Otherwise)} \end{array} \right. \end{equation}\]

このとき,\[\|g\|_{L^2}^2=\sum_{k=1}^{\infty}\int_{S_{n(k)}\cap K_{m(k)}}\mid g(x)\mid^2\ dx=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{n(k)^2}\leq\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6}<\infty\]

というガバガバ評価により,\(L^2\)の元であることがわかります.その一方で,

\[\|M_Fg\|_{L^2}^2=\int_{\cup_{k=1}^MS_{n(k)}\cap K_{m(k)}}\mid F(x)g(x)\mid^2\ dx\geq\int_{\cup_{k=1}^MS_{n(k)}\cap K_{m(k)}}\mid n(k)\mid^2\mid g(x)\mid^2\ dx=\sum_{k=1}^Mn(k)^2\times\frac{1}{n(k)^2}=M\to \infty\ (as\ M\to \infty)\]

従って,(1)が示されました.

次に(2)を示します.まず,\(D_M=\cup_{n=1}^MS_n\)とおき,\(\forall f\in L^2(\mathbb{R}^N)\)に対して,\[f_M(x)=I_{D_M}(x)f(x)\]とします.ただし,\(I_A\)は\(A\)の定義関数を表します.

このとき,\(f_M\)は明らかに定義域に入っていて,\[\|f_M-f\|_{L^2}^2=\sum_{n=M+1}^{\infty}\int_{S_n}\mid f(x)\mid^2\ dx\to 0\ (as\ M\to\infty)\]より,\(D(M_F)\)は稠密であることがわかります.

最後に(3)は各\(k\)に対して,\(B_k=S_{n(k)}\cap L_{m(k)}\)として,\[f_k(x)=\frac{I_{B_k}(x)}{\sqrt{\mu(B_k)}}\]と定義すると\(\|f_k\|_{L^2}=1,f_k\in L^2\)であって,

\[\| M_Ff_k\|_{L^2}=\Bigl(\int_{B_k}\frac{\mid F(x)\mid^2}{\mu(B_k)}\ dx\Bigr)^{\frac{1}{2}}>n(k)\to\infty\ (as\ k\to\infty)\]より,非有界作用素であることもわかります. \(\Box\)

こんな感じで、本質的に有界でない時でも結構面白いことがあったりします.すごくシンプルですが面白い作用素だと思います.

今回はこれで終わります.ありがとうございました.

掛け算作用素の話をしたかった(準備その2)

書いたはいいけど存在忘れそう.

今回は線形作用素について必要最低限述べて行こうと思います.

線形作用素という文字だけ見るとなんか難しそうかもしれませんが別にたいしたことないです.

ここではヒルベルト空間に限っておきますが,別にBanach空間でも変わりません.

Definition\(H,\ K\)をヒルベルト空間とし,\(D\)を\(H\)の部分空間とする.

\(T\colon H\to K\)が\(H\)上の線形作用素(linear operator)であるとは,\[\forall u,v\in D,\forall \alpha,\beta\in\mathbb{C},T(\alpha u+\beta v)=\alpha Tu+\beta Tv\]が成り立つことである.また\(D\)を\(T\)の定義域(domain)といい,\(D=D(T)\)で表す.

ここで注意しておかなければならないのは,作用素の定義には定義域も含まれるということです.なにを当たり前なことを私も最初は思いましたが,これは意外と大事で間違いを起こしやすいので気をつけましょう.

つまり、二つの作用素が同じということは定義域とその各点での値がともに一致する必要があるということですね.

ところで,線形作用素の連続性と有界性や作用素ノルムについては少し触れる必要がありますね.

以下,\(H,K\)は特に断らない限りヒルベルト空間とします.

Definition線形作用素\(T\colon H\to K\)が連続であるとは,\(D(T)\)内の収束列で,その極限\(x\)が\(D(T)\)に属すような点列\(\{x_n\}\)に対して,\[\|Tx_n-Tx\|_K\to 0\ (as\ n\to \infty)\]が成り立つことである.

次に有界性についてです.

Definition線形作用素\(T\colon H\to K\)が有界であるとは,\[\exists M.0;\ \forall u\in D(T),\ \|Tu\|_K\leq M\|x\|_H\]が成り立つことである.

線形作用素では上の二つは結局のところ同値であることはコメントしておきます.(証明はわりと簡単です.)

また、有限次元の空間上の線形作用素はすべて有界作用素なので、非有界作用素は無限次元空間で考えなければ意味がありません.

ここでDensely Definedについて話しておきましょう.

Definition作用素\(T\colon H\to K\)の定義域\(D(T)\)が\(H\)で稠密であるとき,\(T\)は稠密に定義された(densely defined) 作用素という.

さて、densely definedな有界作用素は次のようなことが成り立ちます.

propsition作用素\(T\colon H\to K\)をdensely definedな有界線形作用素とする.このとき,有界線形作用素\(\overline{T}\colon H\to K\)がただ一つ存在して,\(\forall u\in D(T), Tu=\overline{T}u\)かつ,\(D(\overline{T})=H\)が成り立つ.

証明は任意の\(u\in H\)に対して,\(u_n\to u\ (as\ n\to\infty)\)なるものをとって,\(\overline{T}u=\lim_{n\to\infty}Tu_n\)とすれば良いです.

この定理により,densely definedな有界作用素では結局のところ定義域は空間そのものだと思って良いことになります.

このように\(T\colon H\to K\)が有界線形作用素で,\(D(T)=H\)となるもの全体を\(\mathbb{B}(H,K)\)と書く事にします.

ここでこの\(\mathbb{B}(H,K)\)は自然な和とスカラー倍について\(\mathbb{C}\)ベクトル空間となり,また次のノルムについて完備であることがわかります.

propsition\(T\in\mathbb{B}(H,K)\)に対して,\[\|T\|=\inf\{M\ ;\ \|Tu\|_K\leq M\|u\|_H\}\]と定義すると,\(\mathbb{B}(H,K)\)上のノルムとなり,このノルムに関して完備である.

また、このノルムは\[\|T\|=\sup_{u\neq 0}\frac{\|Tu\|}{\|u\|}\]と表すこともできます.

さらに定義から明らかに,\(\|Tu\|\leq\|T\|\|u\|_H\)が成り立ちます.

ここでようやっと掛け算作用素が定義できます.

Definition\(|F(x)|\)がa.e有限な\(\mathbb{R}^N\)上のボレル可測関数\(F\)とする.このとき,\(L(\mathbb{R}^N)\)から自身への線形作用素\(M_F\)を\[\forall f\in L^2(\mathbb{R}^N),(M_Ff)(x)=F(x)f(x)\ a.e.x\]と定義する.ただし,\(F\)が\(\exists M>0;\ \sup|F(x)|\leq M\ a.e\)ならば,\(D(M_F)=L^2(\mathbb{R}^N)\),そうでないならば\(D(M_F)=\{f\ ;\|Ff\|_L^2<\infty\}\)とする.

\(\exists M>0;\ \sup|F(x)|\leq M\ a.e\)が成り立つような\(M\)を本質的な上限といって,その\(\inf\)を本質的な上限といって,\({\rm ess}.\sup|f(x)|=\|f\|_{\infty}\)と表します.

また本質的上限が有限値のとき,その関数は本質的に有界であると言います.

今簡単な計算から,\(\|M_Ff\|_L^2\leq \|F\|_{\infty}\|f\|_L^2\)なので,本質的に有界ならば,\(M_Ff\)もまた\(L^2\)に入ります.

従って,関数\(F\)が本質的に有界ならば,掛け算作用素は\(D(M_F)=L^2\)であるような有界線形作用素です.

では本質的に有界でない場合はどうなるのか?というのは次回お話するとしましょう.

次回は掛け算作用素の性質についてです.

掛け算作用素の話をしたかった

掛け算作用素の話をしたい

ブログすらかく暇なかった(言い訳).

今回から掛け算作用素とかいうシンプルだけど割と大事な作用素を扱ってみたいと思います.

コイツの話は結構Lebesgue積分の復習にもなるのでお得だと思うので,暇なら読んでみてください.

ところで作用素云々の前に\(L^p\)については定義する必要があるのでそこからいきましょう.

Definition\(1\leq p<\infty\)とし,\ \(\Omega\subset\mathbb{R}^N\)を開集合とするとき,\[L^p(\Omega)=\{f\colon\Omega\to \mathbb{C}\ ;\ \int_{\Omega}\mid f(x)\mid^p dx<\infty\}\]と定義する.ただし, 上の積分はLebesgue測度に関する積分で,\(f=0\)はLebesgue測度に関してほとんどいたるところ\(f=0\)という意味で使う.

念のため一応書いておきますが,Lebesgue測度\(\mu\)に関してほとんどいたるところ\(f=0\)であるとは,\(\mu(N)=0\)なる集合\(N\subset\mathbb{\Omega}\)が存在して,\(\Omega\setminus N \)上\(f=\)となることをいい,\(f=0\ a.e.\mu\)などと書きます.

またこのような集合\(N\)を零集合といいます.

細かいことは抜きにして,この空間は線形ベクトル空間となります.これは\(\ell^p\)と同様に示すことができます.

また次のことが成り立ちます.

proposition\(1\leq p<\infty\)とし,\ \(\Omega\subset\mathbb{R}^N\)を開集合とする.\(f\in L^p(\Omega)\)に対して,\[\|f\|_p=\Bigl(\int_{\Omega}\mid f(x)\mid^p\ dx\Bigr)^{\frac{1}{p}}\]と定義するとこれは\(L^p(\Omega)\)上のノルムであり,このノルムに関して完備となる.

ノルムベクトル空間となるまでは基本的に\(\ell^p\)と同様ですが, 完備性は若干\(\ell^p\)よりは面倒です.本来ならば示すべきですが,証明については関数解析の本には大抵載っているのでそちらを参照する方がわかりやすいでしょう.

ところで,上でさらっとノルムベクトル空間になると言ってしまいましたが,実際は少しだけ注意することがあって

\(\|f\|_p=0\)ならば\(f=0\ a.e.\mu\)となることは自明ではありません.

実際,\(\|f\|_p=0\)ならば,積分範囲を\(\Omega(\mid f\mid>0)=\{x\in\Omega\ ; \mid f(x)\mid >0\},\ \Omega(f=0)=\{x\in\Omega\ ;f(x)=0\}\)に分けて考えると結局\[\|f\|_p^p=\int_{\Omega(\mid f\mid>0)}\mid f(x)\mid^p\ dx=0\]です.

ここで,\(\Omega(\mid f\mid >0)=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega(\mid f\mid>\frac{1}{n})\)なので(ただし,\(\Omega(g>a)=\{x\in\Omega\ ; g(x)>a\}\))

\[0=\int_{\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega(\mid f\mid >0)}\mid f(x)\mid^p\ dx>\int_{\Omega(\mid f\mid >\frac{1}{n})} \mid f(x)\mid ^p\ dx>\frac{1}{n^p}\mu(\Omega(\mid f\mid >\frac{1}{n}))\]

となり,\(\mu(\Omega(\mid f\mid >\frac{1}{n}))=0\)が任意の\(n\in \mathbb{N}\)に対して成り立って,\[\mu(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega(\mid f\mid >0))\leq \sum_{n=1}^{\infty}\mu(\Omega(\mid f\mid >\frac{1}{n}))=0\]となって,これは\(f=0\ a.e.\mu\)を意味します.

逆にほとんどいたるところ\(0\)であれば零集合上の積分が\(0\)となることからノルムが\(0\)になることがわかります.

なお一般に\(f\)が連続であれば,真に\(0\)ですが,可積分な関数という条件だけでは真に\(0\)であることは出てきません.

従って,正確には\(p\)上可積分全体をノルムの核で割った商集合を考えて、それ上のノルムであると考えるのが適当ですが、便宜上このように扱うことが多いです.

ところで,このノルムに関して完備になったわけですが,特に\(p=2\)のとき次の内積に関してヒルベルト空間であることがわかります.

proposition\(f,g\in L^2(\Omega)\)に対して,\[(f,g)=\Bigl(\int_{\Omega}f(x)\overline{g(x)}\ dx\Bigl)^{\frac{1}{2}}\]と定めると,\(L^2(\Omega)\)上の内積となり,この内積に関してヒルベルト空間となる.

ここでヒルベルト空間とは内積\((\cdot,\cdot)\)から定まるノルム\(\|\cdot\|=\sqrt{(\cdot,\cdot)}\)に関して完備となる空間のことを言います.

取り急ぎ準備をしたので,もしかしたら不備があるかもしれませんが、大体このくらい言っておけば少し位は話ができるのではないかと思いますので準備を終わります.というか思いのほか疲れたので今回は終わります.

次回は線形作用素の話でもやって、掛け算作用素の話ができたら嬉しい感じです.

例をあげるだけ

今回は例を上げろと言われたら役に立つかもしれないメモです.

その1 完備でない無限次元ノルムベクトル空間

念のため,ノルム空間等の定義は私の記事

troy-sugaku-t.hatenablog.com

に書いてあります.

まぁ,記事を改めて読み直すほどのものでもないので,さっと定義だけ見てもらえればいいと思います.

ところで,完備でないノルム空間の例ですが,有限次元だと真っ先に\(\mathbb{Q}\)が思いついてしまうので,無限次元で考えることにしましょう.

簡単に思いつくところでは次が挙げられます.

Example\([0,\ 1]\)上の実数値連続関数全体の集合\(C[0,\ 1]\)は\(L^1\)ノルム\(\|\cdot\|_1\)に関して,ノルムベクトル空間となるが,完備でない. ただし,\(L^1\)ノルムとは,関数\(f\)に対し,\[ \|f\|_1=\int_0^1\mid f(x)\mid\ dx\]である.(ただし,この積分はLebesgue積分である.)

 

ノルムベクトル空間になることは良いので,完備でないことを示しましょう.

具体的に言うと,Cauchy列であるが,\(L^1\)ノルムに関して収束列とならないような関数列をとってくれば良いわけですが,次のように定めます:

\[\begin{equation} \forall n\in\mathbb{N},\ f_n(x)= \left \{ \ \begin{array}{l} 0  \Bigl(0\leq x\leq \frac{1}{2}\Bigr) \\ \\ n\Bigl(x-\frac{1}{2}\Bigr)\hspace{20mm}\Bigl(\frac{1}{2}\leq x\leq \frac{1}{2}+\frac{1}{n}\Bigr)\\ \\ 1 \Bigl(\frac{1}{2}+\frac{1}{n}\leq x\leq 1\Bigr) \end{array} \right. \end{equation}\]

と定めると,\(f_n\in C[0,\ 1]\)です.

また,\[\| f_n-f_m\|_1=\int_{0}^{1}\mid f_n(x)-f_m(x)\mid\ dx=\frac{1}{2}\Bigl(\frac{1}{m}-\frac{1}{n}\Bigr)\to 0\ (as\ n\to\infty)\]より,\(\{f_n\}_{n=1}^{\infty}\)は\(c[0,\ 1]\)上のCauchy列です.

さてここで,\(f_n\)は各\(x\in [0,\ 1]\)に対して,\[\begin{equation} \lim_{n\to\infty}f_n(x)=f(x)=\left\{\ \begin{array}{l} \frac{1}{2}\hspace{19mm}\Bigl(0\leq x\leq \frac{1}{2}\Bigr) \\ \\ 1\hspace{20mm}\Bigl(\frac{1}{2}<x\leq 1\Bigr) \end{array} \right. \end{equation}\]となります.

このとき,Lebesgueの有界収束定理より,\(\|f_n-f\|_1\to 0\ (as\ n\to\infty)\)ですが,\(f\not\in C[0,\ 1]\)ですので,\(\{f_n\}_{n=1}^{\infty}\)は収束列とはなりません.

よって,完備でないことが示されました.

この結果が示すことは,結局\(C[0,\ 1]\)は考える範囲が狭すぎて収束しないものができてしまうということです.まぁそうじゃないのが完備なので当たり前ですが.

最後に例の中で使ったLebesgueの有界収束定理を念のため書いておきましょう.

Theorem(Lebesgueの有界収束定理)測度空間を\((\Omega,\mathcal{B},\mu)\)とし,\(E\in\mathcal{B}\)かつ,\(\mu(E)<+\infty\)なる\(E\)上の\(\mathcal{B}\)-可測関数の列\(\{f_n\}_{n=1}^{\infty}\)が一様有界かつ,ある関数\(f\)にほとんどいたるところ収束するならば,\(f_n,f\)は共に\(E\)上積分可能であって,\[\lim_{n\to\infty}\int_E f_n(x)\ d\mu(x)=\int_E f(x)\ d\mu(x)\]が成り立つ.

 

先ほどの場合,各\(f_n,f\)は明らかに\(1\)以下なので,一様有界であって,各点収束しているので定理の主張を満たします.なお連続関数ならば,Lebesgue可測関数です.(通常の意味の積分でも連続関数は積分可能なわけなので,そうじゃないと困るわけですが.)

さて,Lebesgue積分論でぶん殴ってスッキリしたところで次に行きましょう.

その2  有界閉集合だけどコンパクトでない

これは簡単な議論でできます.

\(\ell^p\)空間の\(p=2\)で考えましょう.\(\ell^p\)については上にあげた記事の1に書いてあります.

Example\(\ell^2\)の部分集合\[B=\{x=\{x_i\}_{i=1}^{\infty}\in\ell^2\ ;\ \|x\|_{\ell^2}\leq1\}\]は有開閉集合であるが,コンパクト集合でない.

これが有開閉集合であることはよいでしょう.

ところが,任意の\(n\in\mathbb{N}\)に対し,\[\begin{equation} d_n^{(i)}= \left \{ \begin{array}{l} 1 (i=n) \\ 0 (i\neq n) \end{array} \right. \end{equation}\]

と定めると,\(d_n=\{d_n^{(i)}\}_{i=1}^{\infty}\in B\)より,\(\{d_n\}_{n=1}^{\infty}\)は\(B\)内の点列ですが,

\(n\neq m\)となる任意の自然数\(n,m\)に対し,\(\|d_n-d_m\|_{\ell^2}=\sqrt{2}\)なので,どのように部分列をとってもCauchy列でないことがわかります.

今,\(\ell^2\)は完備なので,Cauchy列は収束列ゆえ,\(\{d_n\}_{n=1}^{\infty}\)は収束部分列を持たないことがわかり,これはコンパクトでないことがわかります.

という感じで,割と簡単に示せました.なお最後の結論は点列コンパクト性とコンパクト性が同値であることがありますが,それはよくご存知でしょう.

最後にもう一つ書いて終わりにしましょう.

その3 可分でないノルム空間

これは次のようにします.

Example\(\mathbb{R}\)上の有界関数全体の集合\(L^{\infty}(\mathbb{R})\)は\(\sup\)ノルム\(\|\cdot\|_{\infty}\)に関して可分でない.ただし,\[ \|f\|_{\infty}=\sup_{x\in\mathbb{R}}\mid f(x)\mid \]である.

 

まず任意の\(s\in\mathbb{R}\)に対し,\(f_s(x)=I_{(-\infty,\ s)}(x)\)と定めます.ただし,\(I_A(x)\)は\(A\subset\mathbb{R}\)の定義関数(特性関数)を表します.

ここから,可分でないことを背理法を用いて示します.すなわち,可分であると仮定します.

可分であるとは,可算な稠密部分集合が存在することだったので,それを\(\{x_n\}_{n=1}^{\infty}\)とおきます.

このとき,\(s\neq t\)なる実数\(s,t\)で,\[\| f_s-x_k\|_{\infty},\ \|f_t-x_k\|<\frac{1}{4}\]なる自然数\(k\)が存在するようなものがあります.

もしこのような\(s,t\)が存在しないならば,\(\mathbb{R}\)から\(\mathbb{N}\)への単写が作れることになり矛盾が生じるからです.

ところが,\(s\neq t\)ならば,\(\|f_s-f_t\|_{\infty}=1\)であるが,三角不等式から,\[\|f_s-f_t\|_{\infty}\leq \|f_s-x_k\|_{\infty}+\|f_t-x_k\|_{\infty}<\frac{1}{2}\]となり矛盾します.

よって,背理法により,可分でないことが示されました.

ということで,詰め合わせでした.以上で終わります.

間違い等ございましたらコメントかTwitterにて指摘をしてくださると幸いです.

ひとくち数学「Γ関数は階乗の拡張?」

Γ関数

以下適当に複素解析の基本的な話は既知として話を進めます.

まずはとりあえず定義からいきましょう.

Definition(\(\Gamma\)関数)\(s\in\mathbb{C}\)として,\(\Re (s)>0\)とするとき,\[\Gamma(s)=\int_{0}^{\infty}t^{s-1}e^{-t}\ dt\] と定義する.


proof

まずこの広義積分が収束しているのか問題は一応ありますが,定義の範囲で絶対収束して正則な関数になっています.

次の命題は証明はしませんが,\(\Gamma\)関数の基本的な性質です.

proposition(\(\Gamma\)関数の性質)\(s\in\mathbb{C}\)として,\(\Re (s)>0\)とするとき,\[\Gamma(s+1)=s\Gamma(s)\] が成り立つ.

 

上の性質より特に,\(n\in\mathbb{N}\)のとき,\(\Gamma(n+1)=n!\)が成り立ちます.すなわち階乗の拡張だと言えます.

しかし,このような性質を満たす関数はまだほかに存在する可能性を残しているのでこのままでは真の意味で拡張とは言えません.

さて,其の辺はどうなっているのか?というのはとりあえず置いといて,上の命題からさらに次がわかります.

proposition(\(\Gamma\)関数の拡張)\(S=\{0,-1,-2,\cdots \}\)とするとき,\(\Gamma\)関数は\(\mathbb{C}\setminus S\)上で正則な関数に拡張され,\(S\)の任意の点を\(1\)の極にもち,その留数は\[{\rm Res}[\Gamma(s),-n]=\frac{(-1)^n}{n!}\]である.

proof

証明というほどでもないですが,\(\Gamma\)関数は前の命題より,\[\Gamma(s)=\frac{\Gamma(s+n+1)}{s(s+1)\cdots (s+n)}\ (\Re (s)>-n-1)\]という表記が任意の\(n\in\mathbb{N}\)に対し得られます.

従って,前半の主張はわかったので,次は留数ですが,\[{\rm Res}[\Gamma(s),-n]=\lim_{s\to -n}(s+n) \Gamma(s)=\lim_{s\to -n}\frac{\Gamma(s+n+1)}{s(s+1)\cdots (s+n-1)}=\frac{(-1)^n}{n!}\]となって証明が終わります. \(\Box\)

という事で,これによっていい感じの表記が得られたのでめでたしめでたしというわけですが,ここで,さらに次の定理が成り立ちます.

Theorem\(D\subset\mathbb{C}\)を領域,複素関数\(f(s)\)は\(D\)上で正則であるとし,また次の条件が成り立つとする:
    \( (1)\ V=\{s\ ;\ 1\leq\Re (s)< 2\}\subset D\)
    \((2)\ f(z)\colon\ V\)で有界.
    \((3)\ f(s+1)=sf(s)\).

このとき,\(f(s)=f(1)\Gamma(s)\)である.

proof

まず,\((3)\)の性質より,関数\(f(s)\)は\(\mathbb{C}\setminus S\)上の正則関数に拡張され,その留数は\[{\rm Res}[f(s),-n]=f(1)\frac{(-1)^n}{n!}\]です.

従って,関数\(g(s)\)を\(g(s)=f(s)-f(1)\Gamma(s)\)は\(\mathbb{C}\)上の整関数です.

これより,\(h(s)=g(s)g(1-s)\)と定義すると,整関数かつ,\(\{s\ ;0<\Re(s)\leq 1\}\)上有界です. ((1),(2)の条件より.)

また,\[h(s+1)=g(s+1)g(-s)=sg(s)\frac{g(-s)}{-s}=-h(s)\]より,任意の\(n\in\mathbb{N}\)に対し,\(\{s;\ n\leq \Re(s)<n+1\}\)で有界ですので,\(h(s)\)は\(\mathbb{C}\)上有界な関数になります.

従って,Liouvilleの定理から,有界な整関数は定数関数に限るので,\[h(s)=h(0)=g(0)g(1)=0\]より結論を得ます. \(\Box\)

以上より少し範囲は狭いですが,\(\Gamma\)関数と似たような性質を持つ関数はすべて\(\Gamma\)関数の定数倍だと分かってしまいました.

従って,\(\Gamma\)関数には,無限積表示,\[\frac{1}{\Gamma((s)}=se^{\gamma s}\prod_{n=1}^{\infty}\Bigl(1+\frac{s}{n}\Bigr)e^{-\frac{s}{n}}\]

※ただし,\(\gamma=\lim_{n\to\infty}\Bigl(\sum_{k=1}^n\frac{1}{n}-\log n\Bigr)\)

がありますが,これを簡単に示すことができます.

なぜなら,上の表記を右辺の逆数をとった関数を上の定理に適用できるからです.

なお右辺が整関数であることについては,無限積の一般論により,無限級数の収束に置き直すことで簡単に示せます.

上の表記が良いところは,無限積の零点が丁度\(S\)の点であり,ここからも\(\Gamma\)関数の極が\(S\)上にしかなく,それ以外の点では非零であることも明らかなところですね.

という感じで,ちょっとだけ\(\Gamma\)関数について触れてみました.以上で話を終わります.

間違い等ございましたらコメントかTwitterにて指摘していただけると幸いです.