ひとくち数学「Γ関数は階乗の拡張?」
Γ関数
以下適当に複素解析の基本的な話は既知として話を進めます.
まずはとりあえず定義からいきましょう.
proof
まずこの広義積分が収束しているのか問題は一応ありますが,定義の範囲で絶対収束して正則な関数になっています.
次の命題は証明はしませんが,\(\Gamma\)関数の基本的な性質です.
上の性質より特に,\(n\in\mathbb{N}\)のとき,\(\Gamma(n+1)=n!\)が成り立ちます.すなわち階乗の拡張だと言えます.
しかし,このような性質を満たす関数はまだほかに存在する可能性を残しているのでこのままでは真の意味で拡張とは言えません.
さて,其の辺はどうなっているのか?というのはとりあえず置いといて,上の命題からさらに次がわかります.
proof
証明というほどでもないですが,\(\Gamma\)関数は前の命題より,\[\Gamma(s)=\frac{\Gamma(s+n+1)}{s(s+1)\cdots (s+n)}\ (\Re (s)>-n-1)\]という表記が任意の\(n\in\mathbb{N}\)に対し得られます.
従って,前半の主張はわかったので,次は留数ですが,\[{\rm Res}[\Gamma(s),-n]=\lim_{s\to -n}(s+n) \Gamma(s)=\lim_{s\to -n}\frac{\Gamma(s+n+1)}{s(s+1)\cdots (s+n-1)}=\frac{(-1)^n}{n!}\]となって証明が終わります. \(\Box\)
という事で,これによっていい感じの表記が得られたのでめでたしめでたしというわけですが,ここで,さらに次の定理が成り立ちます.
proof
まず,\((3)\)の性質より,関数\(f(s)\)は\(\mathbb{C}\setminus S\)上の正則関数に拡張され,その留数は\[{\rm Res}[f(s),-n]=f(1)\frac{(-1)^n}{n!}\]です.
従って,関数\(g(s)\)を\(g(s)=f(s)-f(1)\Gamma(s)\)は\(\mathbb{C}\)上の整関数です.
これより,\(h(s)=g(s)g(1-s)\)と定義すると,整関数かつ,\(\{s\ ;0<\Re(s)\leq 1\}\)上有界です. ((1),(2)の条件より.)
また,\[h(s+1)=g(s+1)g(-s)=sg(s)\frac{g(-s)}{-s}=-h(s)\]より,任意の\(n\in\mathbb{N}\)に対し,\(\{s;\ n\leq \Re(s)<n+1\}\)で有界ですので,\(h(s)\)は\(\mathbb{C}\)上有界な関数になります.
従って,Liouvilleの定理から,有界な整関数は定数関数に限るので,\[h(s)=h(0)=g(0)g(1)=0\]より結論を得ます. \(\Box\)
以上より少し範囲は狭いですが,\(\Gamma\)関数と似たような性質を持つ関数はすべて\(\Gamma\)関数の定数倍だと分かってしまいました.
従って,\(\Gamma\)関数には,無限積表示,\[\frac{1}{\Gamma((s)}=se^{\gamma s}\prod_{n=1}^{\infty}\Bigl(1+\frac{s}{n}\Bigr)e^{-\frac{s}{n}}\]
※ただし,\(\gamma=\lim_{n\to\infty}\Bigl(\sum_{k=1}^n\frac{1}{n}-\log n\Bigr)\)
がありますが,これを簡単に示すことができます.
なぜなら,上の表記を右辺の逆数をとった関数を上の定理に適用できるからです.
なお右辺が整関数であることについては,無限積の一般論により,無限級数の収束に置き直すことで簡単に示せます.
上の表記が良いところは,無限積の零点が丁度\(S\)の点であり,ここからも\(\Gamma\)関数の極が\(S\)上にしかなく,それ以外の点では非零であることも明らかなところですね.
という感じで,ちょっとだけ\(\Gamma\)関数について触れてみました.以上で話を終わります.
間違い等ございましたらコメントかTwitterにて指摘していただけると幸いです.